サウンドマスター山内が語る「900シリーズ」のサウンドコンセプトとは?
オーディオファンから高い評価を得ているデノンHi-Fiコンポーネントのニューモデル、900NEシリーズ。その900NEシリーズの開発コンセプトやサウンドの狙いなどについて、デノン製品のサウンドを統括するサウンドマスターの山内慎一にインタビューしました。
900NEシリーズのターゲットは1クラス上の1600NEシリーズ
●山内さん、今日はデノンのHi-Fiコンポーネントの「900NEシリーズ」の開発の経緯やサウンドのコンセプトなどについておうかがいします。よろしくお願いします。まずは900NEシリーズのサウンドコンセプトはどんなものだったのでしょうか。
山内: 900NEシリーズはグレードとしては800NEシリーズの後継となりますが、製品開発や音質グレードとしてはその一つ上のグレードである1600NEシリーズをターゲットにしました。というのも、今までの百番台のモデルは製品の仕様や佇まいも含めて、千番台以上と差別化がされていますが、百番台の進化を進めていくにはその部分にも手を入れていく必要があると考えていました。そこでこの900NEシリーズでは上位の作り方や構成を取り入れ脱皮させたいと思いました。
デノンサウンドマスター 山内慎一
筐体奥行が伸張することで基板設計、部品選択の自由度が向上
●具体的にはどんな点を変えていったのですか。
山内:製品企画の時点で、筐体の奥行きを伸ばして本体内内部に今までより広いスペースを確保しました。それによって1600NEのような基板のレイアウト、内部構成が可能となり、回路やパーツなどの選択の自由度を上げることで、音質向上を狙いました。
800NEシリーズ(左)と900NEシリーズ(右)の本体サイズの違い。奥行きが長くなった
●筐体の奥行きを長くするというのは、開発としては大きなチャレンジなのでしょうか。
山内:そうですね。今まで百番台シリーズは、長らくコンパクトにまとめることがコンセプトだった面がありました。そのために同一基板にアナログの電源とデジタルの電源があったり、いくつものブロックが同居したりしていました。しかし空間に余裕ができ、基板設計の自由度が上がったことで、それぞれのブロックをきちんと棲み分けした、より音質重視のレイアウトが可能になりました。
●逆に言えば基板設計の自由度をあげるためには、このシャーシの容積が必要になるということですか。
山内:そうですね。従来は高密度で実装されていたので、スペースの制約などでこれ以上やれることは限られていました。それがほぼなくなったので、基板設計だけではなくパーツの選択肢も飛躍的に向上しました。
DCD-900NE内部
●具体的にはどんなパーツが使えるようになったのですか。
山内:ブロックコンデンサーに1600NEと同じような大型な物を採用しています。基板についても、アナログ電源とデシタル電源を別基板としました。またDACやオペアンプなども最適なパーツを再度選び直しました。また電源のACコードも、800NEシリーズは固定でしたが900NEシリーズでは差し替えが可能なインレットタイプに変えているので、電源ケーブルを変えて音質の変化を楽しむという、ちょっとマニアックな楽しさも味わえます。
電源コード着脱式になったDCD-900NE(左)と電源コードが固定されているDCD-800NE(右)
狙ったのは1600NEシリーズのような「切れ込んでくる音」
●900NEシリーズの音づくりはどんなコンセプトですか。
山内:ひとことで言うと「存在感」、つまり音のプレゼンスが上がるという感じでしょうか。シャープで、かつ、音楽の全体像がはっきり出てくるような音。それによって上位クラスのようなより「切れ込んでくる音」を狙いました。というのも800NEシリーズでは、そのあたりも含めてまだまだ可能性があると思っていたんです。そのためには、筐体を大きくして、ブロックコンデンサーを大きくして、こういう構成にして、と、だいたいの青写真は以前から考えてありました。
●山内さんはサウンドマスターとして800NEシリーズも手掛け、今回その後継である900NEシリーズも手掛けたわけですが、そこには山内さん自身の進化も反映されたのでしょうか。
山内:サウンドマスターとして私が行う作業は特に変わりませんが、数年間に渡り、音作りをやっている中で、よりベターなもの、理想的な方向を模索しているわけなので、自身も新製品も進化していくことは自然なことと思います。
2018年に800NEシリーズが発売され、2019年にSX1 LIMITED EDITIONを出し、さらに2020年のA110シリーズがと、それらのモデルの開発などで培ったノウハウなどが反映され2022年に900NEシリーズがあるわけなので、その過程でデノンのサウンドフィロソフィーである「Vivid & Spacious」をより追求できている、と思います。
PMA-900HNE内部
デノンのフルサイズHi-Fiアンプで初めてHEOSに対応したPMA-900HNE
●PMA-900HNEはデノンのフルサイズのHi-Fiアンプとしては初めての「HEOS対応」となりましたが、そこに関して苦労した点はありますか。
山内:やはりデジタル回路から生じるノイズを遮断するシールドは非常に重要でした。ただ、これも筐体を大型化し内部のレイアウトを変え、最も効果的だと思われる方法でシールドすることで、デジタルノイズをきちんと封じ込めることができました。
●近年はCDプレーヤーを使わず、Apple Music、Spotify、Amazon HD Musicなどインターネット経由のストリーミングサービスで音楽を聴くスタイルが増えています。CDとストリーミングではやっぱり音は大きく違いますか。
山内:CDとストリーミングに音質の差はない、とは言いません。しかしネットワーク・オーディオの面白いところは、ルーターやケーブルなどの通信系のデバイスまで諸々の環境もかなり重要で、そのあたりを突き詰めていくと、ストリーミングとは思えないぐらいグレードが高い音になることです。先日とある評論家さんのご自宅へうかがった際、PMA-900HNEでネットワーク再生した音が、非常に高音質で新鮮でした。900NEシリーズでそういったトライアルをするのも面白いと思います。
●今後はネットワーク機能を持ったプリメインアンプとスピーカーだけで音楽を楽しむ方が増えるかもしれませんね。
山内:そうですね。スマホとBluetoothスピーカーもいいですが、ぜひネットワーク機能を搭載したPMA-900HNEでストリーミングサービスをお楽しみいただきたいと思います。
●本日はありがとうございました。次回は1700NEシリーズについておうかがいします。よろしくお願いします。
(編集部I)