レコーディングエンジニア森元浩二さんとMine-Changが語る デノン「PerLシリーズ」のパーソナライズ機能の実力
パーソナライズ機能を搭載した高音質完全ワイヤレス・イヤフォン「Denon PerLシリーズ」が人気です。デノンオフィシャルブログではレコーディングエンジニアの森元浩二さんとMine-ChangさんがPerLシリーズを担当したエンジニアと対談。最も音に厳密さを求めるレコーディングエンジニアの立場からPerL Proについてマニアックに語っていただきました。
●prime sound formのレコーディングエンジニアの森元浩二さんとMine-Changさんが、デノンのパーソナライズ機能を搭載した高音質完全ワイヤレス・イヤフォン「PerL Pro」についてお話しいただけるとのことで、森元さんの仕事現場にうかがいました。本日はよろしくお願いします。最初にPerL Proを知ったきっかけを教えてください。
森元: デノンで働いている知人とMine-Changといっしょにいるときに「そう言えばデノンから耳を測定する(編集部注: 聴こえ方を測定&解析してリスニングプロファイルを作成する)面白いTWSが出たよね」みたいな話をしていたら、デノンの彼が「今、持ってます」って。
Mine-Chang:それで「聴きますか?」っていうから、もちろん「聴かせて」って、それで試してみたのが最初でした。
森元:それで、あまりにも素晴らしかったので自分でもPerL Proを購入しました。
エイベックス・エンタテイメント株式会社 prime sound form レコーディングエンジニア森元 浩二さん(写真右)、レコーディングエンジニア Mine-Chang(写真左)
Mine-Chang: PerLシリーズの最大の特長は聴こえ方を測って、その補正をしてくれる、しかもそれがアプリで自動的にしてくれる点ですよね。マイクでスピーカーと部屋の特性を測定してその逆数を作って整音するシステムはこのスタジオにも入ってるんですけど、それとは違い、耳音響放射を応用していると聞きました。耳音響放射と言われても「THE(ジ) 音響放射?」(笑)っていうぐらい知識なかったんですよ。ですから、今日はそのあたりを教えていただきたいと思って参加しました。よろしくお願いします。
PerL Pro
福島:こんにちは。PerLシリーズを担当した福島です。今日はPerL Proの率直な感想をいただきたいと思って来ました。よろしくお願いします。
田中:デノンの営業企画室 田中です。PerL Proをお買い上げいただいたとのこと、ありがとうございました。本日は忌憚ないご意見をいただきたく、よろしくお願いします。
D&Mホールディングス エンジニア 福島欣尚(写真左)、デノン 国内営業本部 営業企画室 田中(写真右)
PerLシリーズは、イヤーチップのフィッティング、外耳道の測定、耳音響放射の3つのチェックを行っている
福島:さっそくですがMine-Changさんからご要望があったPerLシリーズのパーソナライズ機能「Masimo AAT」について簡単にご説明します。今、耳音響放射の話をされましたが、PerLシリーズでは耳音響放射を利用した測定の前に2つのチェックを行っています。
福島:まず1つは「イヤーチップのフィッティング」です。そもそもインイヤーヘッドフォンは、イヤーチップが耳の穴にフィットしていないと、音がきちんと耳に届きませんし、低域が全く出ません。ですからまず、イヤーチップがきちんとフィットしているかの確認を行います。
その次が外耳道の長さの測定です。フィードバックマイクを使用して耳穴の中の音を拾うことでおおよその長さがわかります。これを右耳と左耳でテストします。大体左と右で長さが違ったり、形が違ったりするんです。ですから同じ音を聞いても、実は左右の鼓膜に届いている音は違うんですね。まずその2つのテストをしてから、耳音響放射を利用した測定になります。
PerLシリーズ発表会資料より
蝸牛の有毛細胞の動きによって聞いた音が脳に音が伝わると同時に、蝸牛からも音を発する、これが耳音響放射
Mine-Chang:耳音響放射を利用した測定の前に2つチェックがあるんですね。そして「耳音響放射」ですが、これはどういうことなのでしょうか。
福島:耳音響放射は新生児の難聴検査などに使われている医療技術です。赤ちゃんは聴覚検査をしても「音が聴こえてます」ってスイッチを押せないですよね。それで音が聞こえてるかどうかをチェックするために開発された技術なのです。
そもそも人間は、音を鼓膜を通し振動に変え、耳小骨を通ったあと蝸牛に伝え、有毛細胞がそれを受け電気信号として、脳に届けることで”聞く”ことができます。耳音響放射の仕組みですが、有毛細胞のうち、外有毛細胞というものが能動的に収縮弛緩することで振動を増幅させ、それが今度は逆に鼓膜に戻っていくことで耳音響放射として観察されるのです。その仕組みを利用し、耳に高音から低音までの帯域ごとに音を入力し、それに反応して蝸牛で励起された振動が音に変換されたものを観察することで、その人のおおよその「音の聴こえ方」が判定できるわけです。
耳音響放射は左右を平均したデータを使い、外耳道は左右それぞれ演算してパーソナライズしている
PerLシリーズのアプリによる測定結果の例
●ちなみにPerLシリーズのパーソナライズ機能は、耳音響放射を利用して測定した聴力の特性に加えて、先ほどの外耳道の形の結果も掛け合わされているのですか。
福島:はい、掛け合わされています。
森元:外耳道ということは、ドライバーから鼓膜までですね。そこも結構違うのですか。
福島:かなり違います。外耳道の形状や長さやには個人差が大きいそうですし、右耳と左耳でかなり違う人もいます。これはいろんな補聴器会社さんに聞いた話ですが、外耳道は男女差や年齢さというより、個人差が大きいのだそうです。あと同じ人でも太ると皮下脂肪により、外耳道が狭くなって特性が変わるそうです。
Mine-Chang:外耳道が狭くなると、容積が変わってくるじゃないですか。だから音響インピーダンスも変わってくるし、特性インピーダンスも変わってくるわけですよね。
福島:そうなんです。ですから右耳と左耳の外耳道の違いは、そのまま左右の耳に反映させています。
Mine-Chang:身近にすごく低音を効かせてカッコいいサウンドを作るエンジニアがいるんですけど、彼にPerLシリーズのパーソナライズ機能を使ってリスニングプロファイルを作成したら、ローが少なかったんです。「俺本当に低音難聴なんだ。だから低音ノリノリに作るんだ(笑)」って言ってました。
森元:だから多分、自分が思っているよりローを出しているんだろうね。
Mine-Chang:そう。ダンスミュージック向き!
「スタジオで聴いている音にかなり近い」――森元さん
「ホワイトバランスがとれている音」――Mine-Changさん
●森元さんは、実際にPerL Proのパーソナライズ機能を使ってみて、どんな印象でしたか。
森元:びっくりしましたね。最初の音とパーソナライズ機能を入れた音でこんなに変わるのか、と思いました。これまでいろんなイヤフォンやヘッドフォンを使ってきましたが、何を買っても、色でいえばちょっと赤いとか、ちょっと青いとか、すこし色がのっかっている感じだったんです。でも、自分の耳にパーソナライズ化してくれることで、バッチリと自分の白になる。これはすごいなと驚きました。
Mine-Chang:写真で言うと、ホワイトバランスですよね。今までは自分のホワイトバランスに近いヘッドフォンを探してきたわけですが、PerLシリーズならパーソナライズ機能で、きちんと自分に合ったホワイトバランスが確実に取れる、という感じではないでしょうか。
森元:そうなんだよ、自分の白が出せる。僕は音を作る側なので目標とする絵があるわけですよ。これをみんなに見てほしいと。今までは、みんな実は多少違うものを聴いていて、でも大方こんなかんじだよね、という感じでした。でもパーソナライズ機能を使えば、僕たちがレコーディングスタジオやマスタリングスタジオで聴いている音、僕が目標とする絵にかなり近い音を聴いてもらえます。
補聴器技術レベルにまで踏み込んだことが、音として評価されたのは嬉しい――福島
Mine-Chang:PerLシリーズって、今までのヘッドフォンより一歩深く踏み込んでると思うんですよ。補聴器に近いレベルというか。その技術がオーディオの世界にまで入ってくるのは面白いし、その結果が森元さんはじめ、いろんなエンジニアから評判がいいわけですから、かなりうまく機能してるってことですよね。
福島:ありがとうございます。実際外耳道や内耳の個人差まで見ていくというのは、まさに補聴器レベルの技術です。そこにまで踏み込んでみて、実際に音に一番厳しい森元さんやMine-Changさんにご評価いただけたことがとても嬉しいです。
ただ耳音響放射を使った技術も万能ではなく、技術的にさらに進歩すべき点があります。そのあたりは今後の課題として取り組んでいきたいと思います。
●ヘッドフォンの話になると、よく出てくる話題が「スピーカーで聴いている音との違い」ですが、そのあたりはどう考えますか。
福島:デノンの音響担当であるサウンドマスターの山内と、よくスピーカーとヘッドフォンの音の違いについては論議をしています。
これはあくまで仮説ですが、ヘッドフォンでは低音成分が体感できませんから、その分の低域をヘッドフォンでは持ち上げる必要があることが1つ。もう1つは位相です。ヘッドフォンでは左右で完全に別の音源を聞きますが、スピーカーでは時間差と距離の差がありながらも左右のスピーカーの音が空間で混ざったを、両方の耳で聞くことになります。ですのでヘッドホンで別々で聞くものとは違った体験になっています。体の部分と、同位相の部分を補正しようとすると、ある帯域をすこし持ち上げる必要がある。そうすることで、スピーカーで聴いた時とヘッドフォンで聴いたときの音を近くできる、と考えています。
●最後にもう一度うかがいますが、PerL Proは他のイヤフォン、ヘッドフォンより良かったですか。
森元:はい。全部これ(パーソナライズ機能搭載)になってほしいなっていうのが正直なところです。僕がスタジオで「この音でみんなに届けたい」という音がそのままみなさんに届けられますから。
●みんなにPerL Pro(PerLシリーズ)で聴いてほしいということですか。
森元:そうです。だから僕は、お客さんには今勧めていて、もう何人も買っていますよ。
Mine-Chang: PerL Proを使ってから、世の中で一番流行っているほかの完全ワイヤレス・イヤフォンを使うと、スタジオのモニターだったのが、急に小型スピーカーで聴いてる、みたいな感じがしますからね。
●本日はご多忙中、ありがとうございました。
最後にprime sound formの7.4.2chのサラウンド環境を試聴させていただきました。ありがとうございました。
取材協力
prime sound form
https://form-studios.com