
自宅オーディオでApple Music Classicalを楽しもう DRA-900Hで聴くクラシック音楽

2024年1月24日アップルからクラシックのためにデザインされたアプリApple Music Classicalが登場しました。そのメリットや使いこなしについてクラシック音楽ファシリテーターの飯田有抄さんにデノンのステレオネットワークステレオレシーバーDRA-900Hを使ってご紹介いただきました。
なぜクラシック音楽だけが特化されるの?
Appleの音楽配信アプリApple Musicをお使いの人は多いと思いますが、ジャンルをクラシック音楽に特化したApple Music Classicalが、2024年1月24日から日本でも使えるようになりました。スマホまたはタブレットで使えるアプリです(iOS版とAndroid版のみ。パソコンでは使えません)。
なぜロックやジャズではなく、クラシック音楽だけが別立てになる必要があるの?と思われるかもしれません。特に、あまりクラシックを聴かない人にとっては。しかし、クラシック音楽ファンにとっては「待ってました!」というサービスの開始なのです。
クラシック音楽の情報は錯綜しがち
それというのも、クラシックは他の音楽ジャンルと決定的に違う点があるのです。ひとことで言うなら「ほとんどがカバー曲状態」だということ。歴史の長〜いクラシック音楽は、録音技術のない時代からありました。J.S.バッハが生きていた300年前も、ベートーヴェンが活躍した200年前も、自分の音楽を人に伝えるためには自分で演奏するか、あるいは楽譜に書くしかありませんでした。残された楽譜は、その後何百年もの間、いろんな人たちによって演奏され続け、そして20世紀からは録音もされ続けてきました。
そうするうちに、同じ作品でも、演奏する人が違ったり、同じ演奏家でも何十年も経ってからまた同じ作品を別の解釈で録音したりもします。1曲を1人または1グループで演奏するなら話はまだシンプルですが、同じオーケストラでも指揮者違いのバージョンやら、参加している合唱団違い、独奏楽器の演奏者違いなど、とにかく組み合わせはほぼ無限!今、ベートーヴェンの「運命」(交響曲第5番)をApple Music Classicalで検索したところ、なんと613本ものレコーディングがあると出てきました。この数字は今後も間違いなく増えていくことでしょう。今この瞬間も、どこかの国のオーケストラが、この曲をレコーディングしているかもしれません。
さらに、クラシック音楽の作品は1曲が複数の「楽章」で構成されていたり、曲にはタイトルがなく「op.○」「○長調」といった作品番号や調性で見極めなければいけないものもあります。タイトルがあっても日本語訳がバラバラだったり。何百人もの作曲家がいて、何万人もの演奏家がいて、無数の録音が存在する。しかも、交響曲、協奏曲、室内楽、独奏曲、オペラなど…クラシックの中のジャンルも多様。
どうですか。整理することだけを考えてもウンザリしますよね(笑)。星の数ほど存在するクラシック音楽作品は、どうしても情報が錯綜しがちなのです。
従来のApple Musicだと、そこにジャズやポップスやワールドミュージックなどもてんこ盛りですから、クラシック音楽の特殊事情も相まって、あるはずの音源になかなか辿り着けない、なんてこともありました。
そこにApple Music Classicalの登場です。クラシックに特化したことで、検索がグッとしやすくなるだけでなく、最初からいくつかのカテゴリーに分かれて入り口があるので、知りたい時代、聴いてみたいジャンル、味わいたい楽器など、その時々でアプローチしていけるようにもなりました。クラシック音楽ファンのみならず、というよりもむしろ、これからクラシックを聴いてみたいという人に、アプローチしやすいツールが誕生しました。


Apple Music Classical公式サイトより
クラシック入門編〜直感的に音楽と出会える
入門者にオススメなのは、アプリ画面下の「見つける」ボタンです。「見つける」から入り、上に並ぶボタンのうち、「カタログ」にいくと、作曲者、時代、ジャンル、指揮者、ソリスト…などのアイコンが並びます。「プレイリスト」を押せば、作曲者やアーティストなどのプレイリストの入り口がいろいろ。
3つめの「楽器」は特にオススメ。クラシックの歴史やアーティストを知らなくても、楽器の音のイメージから「ちょっと聴いてみようかな」と気持ちになれるかも。
たとえば「チェロ」を選ぶと、「人気アーティスト」や「人気作品」へとさらに入っていけますので、そこからは直感で(笑)。UIが見やすく、進んで行きやすいので、とにかく気になったら開いていく、というやり方でどんどん音楽と出会っていけます。
もうすこし体系的にクラシックのことを知りたい、と思ったら「カタログ」の中の「時代」をタップ。中世、ルネサンス、バロック、古典派(「クラシック」と表記されていますが・汗)、ロマン派…というように音楽史の古い順番から並んでいるので、どの作曲家がどの時代に属するのかなどを学びつつ、すぐに聴くことができます。
マニアにも嬉しいプレイリスト
クラシック音楽をふだんから聴く人なら、検索窓に自分でキーワードを2つ3つ入れて、さくっとお目当ての音源にたどり着けるのはやはり便利(たとえば、『バーンスタイン マーラー 3番』などと入れれば、バーンスタイン指揮、ニューヨーク・フィルの演奏によるマーラーの「交響曲第3番」が出てきます)。そして、先ほどのとおり「運命」だけでも613本ありますから、それらを心ゆくまで聴き比べてみるのはマニアックな楽しみですね。実際、指揮者やオーケストラによってかなり演奏が違うので、比べることで自分のお気に入りの演奏者を発見することもできます。
検索しやすいのはもちろん嬉しいのですが、むしろクラシック好きにとっては、検索よりも「ニューリリース」にすぐアクセスできることや、プレイリスト系に案外発見があるかもしれません。
画面下の「今すぐ聴く」から入ると、最新のアルバムが表示されるので、片っ端からチェックできますし、未知のアーティストや現代作曲家などと出会えてホクホクします。これが従来のApple Musicですと、どうしても人気のポップスなどの情報が先に表示されてきますから、サクッとクラシックの新譜にいけるなんて、本当にありがたい。
それから「おすすめアルバム」も素直に聴いてみたくなる音源が並びます。ちなみに私はそこから、発売されたばかりのウィリアム・ヨンのピアノ、ウリューピン指揮ベルリン放送交響楽団による、レイナルド・アーンのピアノ協奏曲と出会うことができました。アーンは今年生誕150年の作曲家。ベネズエラで生まれ、フランスで活躍しました。これまで歌曲は聴いたことがありましたが、彼のピアノ協奏曲は未チェックでした! 演奏も録音も素晴らしく、「おすすめ」されてラッキー。もっと演奏されてしかるべき作品ですね。
また、ヤンネ・ヴァルケアヨキという、舌を噛みそうな名前のアコーディオン奏者が、クラヴサンのために書かれたラモーの曲をアレンジした作品集も、「ニューリリース」または「おすすめアルバム」で知り、大好きになりました。普通に『ラモー』と検索しても出会えなかったであろうアレンジものです。
Rameau: Pièces de clavecin avec une méthode (Arr. for Accordion by Janne Valkeajoki)
また、「作曲家プレイリスト」も嬉しいラインナップ。「はじめての○○」というプレイリストはApple Musicではさほど興味のないジャンルのアーティストが画面に出てきたりしますが、ここはクラシック・オンリー。「はじめての黛敏郎」「はじめての武満徹」といった日本の作曲家が先頭に出てきたときは新鮮で嬉しくなりました。そして実際、彼らの音源でも知らないものに出会えるので、エンドレスに聴きたくなります。時間がいくらあってもたりませんね!
「はじめての 黛敏郎」
「はじめての 武満 徹」
もう一歩進めてほしいところも
ただ、クラシック音楽の専門家やマニアにとっては、Apple Music Classicalにもうちょっとがんばっていただけたらな〜という部分もチラホラ。巷でよく聞かれる声は、「録音年」の情報がないこと。リリース年の情報はあるのですが、それが何年に録音された音源なのかは、クラシック音楽にとってはめちゃくちゃ大事なのに、今のところありません。
たとえば、ルドルフ・ブッフビンダーというピアニストは、全部で32曲もあるベートーヴェンの「ピアノ・ソナタ全集」を、これまでに3回も録音している強者です。30代の頃の演奏と60代での演奏では、表現や解釈にも違いが出ますから、「何年何月何日に演奏したのか」という情報はぜひ出してほしいところ(CDやレコードなどの物理メディアには、そうした情報がライナーノートで読めるのですが)。
Beethoven: Complete Piano Sonatas
ルドルフ・ブフビンダー クラシック・1984年
Beethoven: Complete Piano Sonatas
ルドルフ・ブフビンダー クラシック・2021年
また、日本語訳で出されるまでにはどうしてもタイムラグが発生するようです。3年前に権威あるエリザベートー王妃国際音楽コンクールで優勝したジョナタン・フルネルのアルバムを検索したところ、彼の名前はまだ日本語での登録はなく、アルファベットで入力する必要がありました。注目の若手アーティストの情報は、いち早くアプローチできるようになると嬉しいですね。
Brahms: Piano Sonata No. 3 Op. 5 & Handel Variations
Jonathan Fournel
Hi-Fiネットワークステレオレシーバー「DRA-900H」でApple Music Classicalを試聴
さて、Apple Music Classicalはスマホやタブレット専用ではありますが、自宅のオーディオで音楽を聴くときにもサクサク使いたくなるアプリです。
今回私はHi-Fiネットワークレシーバー「DRA-900H」で試聴しました。DRA-900HはAirPlay 2に対応しているので、iPhoneからWi-Fiで簡単に繋げることができました。

DRA-900Hで聴くApple Music Classicalからの響きはとてもパワフル! 上述のヴァルケアヨキのアコーディオンは、まるでパイプオルガンのように芳醇なサウンドで味わえました。
ミェチスワフ・ヴァインベルクの交響曲第7番 Op.81は、冒頭のチェンバロ独奏が奏でるコラールは素朴に美しく、流麗な弦楽合奏の広がりと厚みを存分に味わわせてくれます(この音源もApple Musicの頃には、楽章の順番が違っていたり、表記が楽章によってバラバラでしたが、Classicalの導入で整いました)。
Weinberg: Symphonies Nos. 3 & 7; Flute Concerto No. 1
AirPlay 2で伝送される音源ファイルはCDと同程度のクオリティと言われています(詳細は非公開)。私の場合はBowers & Wilkinsのフロアスタンド型のスピーカー「603 S2」で鳴らしましたが、サクサク“普段使い”で鑑賞する上では、申し分のない豊かな音質で楽しむことができました。DRA-900HはHDMI-ARC対応なので、テレビも接続可能。もちろんネットワークオーディオ機能HEOS搭載です。もはやCDなど物理メディアは使わない、ストリーミングのみで完結!という人は、DRA-900Hとスピーカーだけでシステム完成ですね。ぜひいい音でクラシック音楽を堪能していただきたいと思います。
飯田有抄 プロフィール
東京藝術大学音楽学部楽理科卒業、同大学院修士課程修了。Macquarie University(シドニー)通訳翻訳修士課程修了。音楽専門雑誌、書籍、CD、コンサートプログラム、ウェブマガジンなどの執筆・翻訳のほか、音楽イベントでの司会、演奏、プレトーク、セミナー講師の仕事に従事。NHKのTV番組「ららら♪クラシック」やNHK-FM「あなたの知らない作曲家たち」に出演。書籍に「ブルクミュラー25の不思議〜なぜこんなにも愛されるのか」(共著、音楽之友社)、「ようこそ!トイピアノの世界へ〜世界のトイピアノ入門ガイドブック」(カワイ出版)等がある。公益財団法人福田靖子賞基金理事。
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