
レコーディングエンジニア古賀健一氏インタビュー 「Xylomania Studio新スタジオにAVC-A1Hを導入」

Dolby Atmos作品を数多く手掛けるレコーディングエンジニア古賀健一さんのスタジオにデノンのAVアンプ「AVC-A1H」が導入されました。デノンオフィシャルブログではその導入理由や今後の立体音響などについてインタビューしました。

Dolby Atmos、360 Reality Audioに対応した11.2.6チャンネルの新スタジオをオープン
Xylomania Studio LLCレコーディングエンジニア 古賀 健一さん (写真左)
アシスタントエンジニア 久保 勇斗さん (写真右)
●古賀さん、デノンブログにまた登場いただきありがとうございます。以前Xylomania StudioにデノンのAVアンプAVC-A110が導入された折にお話をうかがいました。今回もう1つ新しいスタジオができ、そこにAVC-A1Hが導入されたということでまたお話を聞きにきました。よろしくお願いします。
●Xylomania Studioに2つ目のスタジオを作った理由を教えてください。
古賀:2020年に作った1つ目のスタジオは9.1.4 chのDolby Atmosスタジオですが、これは自分で使うのを前提としたプライベートスタジオでした。ですから貸し出すにしても気心の知れた仲間にだけでした。そのスタジオの横にドラムやボーカル用の録音ブースがあったのですが、さほど頻繁に稼動するわけではないので、そこを改装して11.2.6 chに対応したミキシングスタジオ&レコーディングブースを作りました。
2つ目のスタジオの用途は、Dolby Atmosや360 Reality Audioなどの立体音響に対応する音楽制作、そしてDolby Atmos や5.1chサラウンドミックスの映画の仕込みですが、さらに音楽家にゼロから立体音響空間で制作ができるプロダクション用のスタジオとしても使ってもらいたいと思っています。またDolby Atmosや360 Reality Audioなどの立体音響コンテンツを上映できる場所として、試写・試聴会、新製品の発表会などにもお貸し出します。たとえばクラウドファンディングの特典でマスターを聴ける場所といった用途にもいいと思います。そして、様々なクリエイターや音の関係者の交流の場にしたいと考えています。
Xylomania Studio 第2スタジオ
●第1スタジオは9.2.4 chですが、第2スタジオは11.2.6 chなんですね。それはどうしてですか。
古賀:もともとシーリング6チャンネルをやりたかったのでスタジオを作りました。ただ最初は9.1.6のつもりでしたが、結局11.2.6になりました。1スタはDolby Atmosが日本で話題になり始めた頃の9.1.4 の制作スタジオで、これはおそらく日本で初めてだったと思うんです。その後Dolby Atmosが一般化するに従って9.1.4のミキシングスタジオがどんどんできていました。さらに今は9.1.6のスタジオも出てきています。
で、新しいスタジオを僕が作るにあたって、すでに9.1.6のスタジオが世の中にあるのなら、僕がここで9.1.6を作っても面白くない、ということで、水平方向を11にしようと考えました。これは映画などのダビングステージで使う音響再生のアレイ再生という方式に対応するためです。
●ダビングステージで制作する映像作品、つまり映画館で上映する作品のニーズが増えているのですか。
古賀:アニメ映画やNetflixなどでの需要は増えているように感じます。あと映画などの作品で主題歌をDolby Atmosにしたいというオファーがあるんです。それに対応するためです。
●それともう一つの360 Reality Audioですが、現状で360 Reality Audioはヘッドフォンでしか再生できないのでしょうか。
古賀:360 Reality Audioって、最近までスピーカーで鳴らすにはとても限られた機材でしか再生できなくて、事実上スピーカーで360 Reality Audioを再生するのは難しい状況でした。なので、プロの制作現場でもヘッドフォンでのミキシングがメインに行われています。でもスピーカーから再生できないからっていう理由で制作者やミックスする人間がヘッドフォンのみで作業していいわけではないし、ヘッドフォンでミックスした音源をスピーカーに展開したときの残念感って半端ないので、できればスピーカーでミックスするべきです。
僕たち音楽制作者は未来に残る作品を作っているわけで、たまたま今あるフォーマットにだけ合わせるのは良くないと思います。360 Reality Audioだって将来はスピーカーで普通に聴かれるかもしれないし、テクノロジーはどんどん進化するから、他にもいろんな再生方法が出るかもしれない。どんな手法で聴いてもいいものを作るのが僕らの仕事なのに、ヘッドフォンに特化したミックスだけを作ればいいなんてことはあり得ないですよね。それで360 Reality Audioをスピーカーで聴ける制作環境を提供したいと考えました。
デノンのAVアンプのフラッグシップモデルAVC-A1Hを、9.1.6チャンネル再生用のプリアンプとして使用
●Xylomania Studioの新しいスタジオにデノンのAVアンプのフラッグシップモデル、AVC-A1Hが導入されました。導入理由を教えてください。
古賀:1スタにはデノンのAVアンプAVC-A110が入っていて、これが音がとても良くて素晴らしかったので、今回はデノンの最新モデルでありフラッグシップモデルでもあるAVC-A1Hを導入しました。また2スタのコンセプトであるシーリング6チャンネルの再生のためにもAVC-A1Hがマストでした。
Xylomania Studio 第1スタジオ
Xylomania Studio 第2スタジオに設置されているAVC-A1H
●このAVC-A1Hはどんな用途で使われているのですか。
古賀:AVC-A1Hは主にプレイバック用です。Apple Music、Amazon Music、Netflixなどのコンテンツを試聴するためのデコーダーとして使っています。さらにAVC-A1Hのおかげでこれまで難しかった360 Reality Audioのスピーカーでのプレイバックも実現しています。
●AVC-A1Hの音質についてはどう思いますか。
古賀:音の透明感があって1スタのAVC-A110よりさらに音が研ぎ澄まされた感じがします。特にS/N比の良さは際立っていて、ボリュームをどれだけ上げてもノイズを感じません。1stではA/Dコンバーターのクオリティが気になったので、今回はこちらの機材のスペックをあげたくらいです(笑)
●A/D変換をするということはAVC-A1Hでは増幅は行っていないのですか。
古賀: AVC-A1Hはプリアンプモードで使っています。そしてAVC-A1Hの出力をADしてデジタルでスタジオの外にあるアンプに入力してパッシブスピーカーへ送っています。
Xylomania StudioのAVC-A1Hのリアパネル。プリアウトから出力されている
AVC-A1Hはプリアンプモードで駆動
●AVC-A1Hをプリアンプとして使うのは贅沢ですね。
古賀:とても贅沢な使い方だと思います。実際プリアンプモードで駆動したら音がとてもクリアになりましたが、考えてみればAVC-A1Hの巨大なトランスをプリだけに使うわけですから、非常に高音質なサウンドになるのは当然といえば当然です。
スタジオの外に設置されたアンプ類
●1スタのAVC-A110と比べてAVC-A1Hは進化した感じがしますか。
古賀:めちゃくちゃ進化してます。すごいですよ。AVC-A110にはある意味でロック的な少し荒い要素があったし、中域の歪感もありました。それが気持ち良かったんですけど、AVC-A1Hは非常にクリーンで、クラシックなどを聴いていると気持ちがいいです。なんか本当はパワーアンプ使わなくてごめんなさいって感じですけど。
それとアップミックスが素晴らしいです。最近YouTubeで8Kや12Kの映像をスクリーンに流してリラックスしてるんですけど、その音楽って2チャンネルなんですよ。それをAVC-A1HでDolby Atmosにアップミックスして聴くととても気持ちいいです。AVC-A1Hのアップミックスの精度はかなり高くて、変なミックスよりずっとよくできてる。特にクラシックなんて気を抜くともう、僕らエンジニアは一撃で負けます(笑)。
デノンのAVアンプAVC-A1Hで天井6チャンネルの再生を勉強したい
●古賀さんがここまで6つのシーリングスピーカーにこだわったのはなぜですか。
古賀:1スタの時はとにかく水平方向の9チャンネルにこだわって、AVC-A110でいろんなフォーマットの9.1.4の作品を聴いてワイドの勉強をしました。そして今回は2スタにAVC-A1H入れてシーリング6チャンネルの勉強をさせてもらうつもりです。
それはなぜかというと、今まで非常に多くの作品が7.1.2で仕上げられてきました。その場合のシーリングの1チャンネルの音は天井にスピーカーが4つあると、全部が同じ音量で鳴ってファンタムで音像が表現されます。ところが9.1.6などシーリングが6発のフォーマットになると、7.1.2のソフトではシーリングスピーカーの真ん中の2つしか鳴らない。そういうことって、シーリング4発だとなかなか気づけないんですよ。それではエンジニアとしてまずいし、実際にシーリング6発を使った表現を磨いていく必要がある、そういった思いでシーリング6発のスタジオとそれを再生できるAVC-A1Hにこだわりました。
一見天井のスピーカーが全部鳴っているようもきこえても、ADコンバーターをみると7.1であることがわかる
9.1.6でこちらは16チャンネル全ての信号がはいっている状態
空間を自由に使えるDolby Atmosを手にすれば表現の可能性はどこまでも拡張する
●古賀さんのご活躍もあり日本でもDolby Atmosや360 Reality Audioなどの立体音響、イマーシブオーディオの作品が増えてきました。サウンドバーなどでもDolby Atmos対応製品が増えていますし、映画のパッケージやサブスクリプションなどの音源でもDolby Atmosは増えています。制作者サイドもDolby Atmosを前提にした制作が増えていると思いますか。
古賀:全体としては、まだまだかもしれません。でも僕のところに来てくれるアーティストやプロデューサーは、Dolby Atmosでの制作に非常に興味を持っています。特に、音楽だけでなく映画の主題歌などで、立体音響での表現に価値を見出しているようです。
●立体音響にはコンサート会場の音場や映画のシーンなどの音場感をリアルに再現する方向もあると思いますが、一方で打ち込みなどにおいて自由な発想で立体音響を使う方向性もあると思います。そうした動きは感じられますか。
古賀:はい、あります。僕たちの世代は「ステレオに押し込められていた」わけですが、これからの人、若い人はステレオに縛られずDolby Atmosから音楽を聴き始める人が出てくる。そんなクリエイターにとって、空間を自由に使えるDolby Atmosなどの立体音響は、クリエイティブな表現の可能性を圧倒的に広げていくんですよね。そのうち「ステレオって何ですか?」という時代が来るかもしれません。
●2chと立体音響は全く違うものなのですか。
古賀:そうですね。違うミックスだと思った方がいいです。どっちがいい/悪いじゃなくて、どっちも良さがあるから。レコードの音もいまさら「悪い」とは言わないですよね。レコードはレコードの良さがあって、ステレオはステレオの良さがあって、AtmosにはAtmosの良さがあるから、その日の気分で聴く人が選べばいい。そんな時代になるでしょう。
●今後、立体音響の制作において、古賀さんが目指すものはなんでしょうか。
古賀:立体音響は今後もどんどん増えるでしょうし、進化し続けるでしょう。ただDolby Atmosなどの立体音響って聴かないと分からないので、まずは我々の側が作る量を増やすこと、それと同時に聴いてもらう機会を増やす。その両面で攻めないといけないと思っています。だから、富山などの地方でもDolby Atmosの制作ができる拠点を作ったりしていますし、定期的にDolby Atmosのイベントなども開催しています。そうやってできるだけ多くの人がDolby Atmosに触れられる場所を増やしたいと思っています。
●デノンとしてもぜひ応援させてください! 本日はありがとうございました。
(編集部I)
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