銘機探訪 DL-103 PART1
歴代のデノン製品から、高い支持を受けたモデルを紹介する銘機探訪。今回は1964年に登場し、2014年の今日まで50年間、全く性能・仕様を変えずに、今なお生産されているMC型カートリッジ DL-103をご紹介します。
歴代のデノン製品から、高い支持を受けたモデルを紹介する銘機探訪。
今回は1964年に登場し、2014年の今日まで50年間、全く性能・仕様を変えずに、今なお生産されているMC型カートリッジ DL-103をご紹介します。
MC型カートリッジ
希望小売価格 35,000円(税抜)
●発売から50年のロングセラー、ステレオカートリッジDL-103
デノンには、DL-103という超ロングセラー製品があります。
50年にわたって販売されているステレオカートリッジ、いわゆるレコード針です。
東京オリンピックが開催された1964年に登場しました。
DL-103は1964年にまず業務用としてNHKに納入され、1970年からは民生用として販売を始めました。
登場以来、2014年の今日まで50年間、性能・仕様を変えずに、同一品番で生産され続けている音響製品は、恐らく他に類を見ないでしょう。
この写真はデノンの試聴室で大切に保管されているDL-103のシリアルNo.1です。
ここから始まり、発売以来累計70万本以上も生産されたDL-103たちが、
この50年でどれほどの数のレコードの溝をトレースし、どれだけの楽曲を奏でたことでしょう。
今なお現役の製品として生産されロングセラーを記録し続けているDL-103の歴史を、少したどってみましょう。
●FMステレオ放送用の標準カートリッジとして誕生
時代は1960年代に遡ります。
当時のラジオ放送は、楽曲を流す際、今のようにアーカイブしたものを流すのではなく、
その場でレコードに針を落として再生していました。
もちろん時にはテープに録音したものを流すこともあったでしょうが、基本は生放送で、放送中に実際にレコードをかけるのが一般的でした。
AMや短波などはモノラル放送でしたが、1960年代後半にFMステレオ放送が本格化します。
それにあたってステレオ放送での標準となるカートリッジの開発が必要となりました。
DL-103はそんな背景から、デノン(当時は日本コロムビア)とNHKによって共同開発されました。
その開発にあたり、FMステレオ放送の送り出し用標準カートリッジとして必要とされる性能が数値を含めて細かく提案され、
それらを満たすことが開発の課題となりました。
それは主に以下の5つでした。
・再生帯域が広く、出力電圧周波数特性が平坦なこと
・左右の分離度がよいこと
・左右の感度差が小さいこと
・針先からみた機械インピーダンスが小さいこと
・ステレオ・レコードおよびモノーラル・レコードを共通のカートリッジで再生できること
(DL103のNHKとの共同開発については以下のページに詳細が掲載されています。詳しくはこちらをご覧ください。)
(試作時のDL-103。内部が観察できるようにクリア樹脂で製作されている)
●ファンの熱い要望により、1970年から一般向けに販売を開始
DL-103は1964年に完成し、NHKに業務用カートリッジとして納品されていました。
FMステレオ放送が一般化し、多くの方がFMラジオを聴くようになると
「NHKのFM放送の送り出し用のカートリッジとして使われているのは、DL-103というものらしい!」
という情報が、オーディオマニアを中心に広がり始めます。
民放FM放送局が次々と立ち上がる時代でもあったため、そこで使われたDL-103はオーディオファンから注目を集める存在でした。
当時レコードは非常に高価でしたので、多くの音楽ファン、オーディオファンは、
FMラジオの前で番組表とにらめっこしながら、自分の好きな曲が流れるのをソワソワして待ち、
カセットデッキやオープンリールのデッキで放送される局を録音=エアチェックしていたものでした。
ですからそのFM放送の送り出し用のオーディオ装置といえば、オーディオマニアにとっては憧れの存在だったのです。
そして1970年にDL103は一般向け販売が開始されました。
民生向け販売に踏み切った最大の理由は、オーディオマニアからの注目度が非常に高くなり、
躍起になって入手しようとする人も出てきたためです。
それだけ多くの方に望まれている製品ならば、市販を開始しようという判断でした。
DL-103はそれまで業務用機器だけを扱ってきたデノンブランド(当時はデンオンと呼称)が、
初めて民生用として発売した製品群のひとつでもありました。
●50年間、ずっと変わらず生産され続けている理由
工業製品というものは、生産しながら少しずつ改良され、同時にコストダウンも図りながらモデル名が変わっていくのが常です。
ところが、DL-103は、50年もの長きにわたり、性能・仕様を変えずに生産され続けています。
なぜDL-103はこれほど長く同一品番・同一スペックで生産され続けているのでしょうか?
その理由はやはり誕生の経緯にあります。DL-103はNHK放送業務用として開発されたため、実は「変えられない」というのが正解なのです。
放送局は、途中で性能・仕様を変えることを許しません。
放送局では「カートリッジを変えたら音が変わった」では困るのです。
ですからDL-103は、今ももちろん放送局で使われていますが、1964年当時と同じ仕様ですし、音も当時と同じです。
とはいえ、まったく同じなのか、といえば、50年の歴史の中で、改良はなされています。
プラスチック部分の成形には金型を使いますが、その金型が寿命を迎えれば、新たな金型を作る必要があります。
その際に、より信頼性が高く、より効率が上がるよう、改良しています。
そのため、1964年にNHKに納入した最初期のものと、1970年に一般向けに販売された頃のもの、そして現在生産しているものを比較すれば、外観が多少異なっています。
しかし実際に音に関わる部分、つまり振動系の基本的なパーツ、特に性能面は、一切変えていません。
必要最小限の改良はしても、音に関しては、50年前から全く変わっていないのです。
次回は、DL-103を生みだす匠の技やその音色について紹介します。お楽しみに。
(part2に続きます)
(Denon Official Blog 編集部I)