AVR-X4200W開発者インタビュー Part.2
デノンのAVアンプの中堅モデルの最新版、AVR-X4200Wがいよいよ発売となりました。その設計思想やコンセプトについての設計者インタビュー、Part.2はデノンAVアンプの設計思想についてです。
デノンのAVアンプの中堅モデルの最新版、AVR-X4200Wがいよいよ発売となりました。
その設計思想やコンセプトについての設計者インタビュー、Part.2はデノンAVアンプの設計思想についてです。
7.2ch AVサラウンドレシーバー
AVR-X4200W
150,000円(税抜価格)
10月中旬発売
製品の詳しい紹介につきましてはこちらをご覧ください。
CSBUデザインセンター 技師 高橋佑規
(PART1 からの続き)
■AVR-X4200Wは先代からかなり大幅な進化を遂げていることがよくわかりました。
高橋:いまはAVR-X4200Wという1モデルでの進化をお話しましたが、実はデノンのAVアンプの進化は継続的に行われています。
10年前のAVRの設計とは、設計思想がかなり違ってきているのです。
■デノンのAVアンプの設計思想は、この10年でどう変化してきたのでしょうか。
高橋:端的に言えば「Hi-Fi」化です。
シンプルに聞こえるかもしれませんが、そう単純な話ではありません。
先代のAVR-X4100Wでは制振性の高いフットやシャーシの剛性を高めるということをしていますが、これらはすべてデノンが長年に亘ってHi-Fiオーディオで培ったフィロソフィーに基づいて実現させたものです。
■それはデノンがHi-Fiオーディオをずっと作り続けているメーカーだからこそ実現できることなのでしょうか。
高橋:Hi-Fiオーディオをどこまで継続的にやり続けてきたか。
技術としてはその連続性が大事だと思います。
Hi-Fiオーディオの設計の哲学やノウハウはじっくりと時間をかけて培われるものです。
特に技術者のレベルで途切れてしまっては、なかなかHi-Fiの技術、音のフィロソフィーを維持し、そこからさらに高めることはできないのではないでしょうか。
■具体的には、現在のデノンのAVアンプはどんな点がHi-Fi的なのでしょうか。
高橋:いろいろとありますが、本日は主に電気的な5つのポイントを挙げてご説明しましょう。
(1)回路のシンプリファイ (2)電流リミッターの追放 (3)高精度なグランディング (4)信号経路のミニマイズ (5)低域特性の改善です。
■順番におうかがいします。「回路のシンプリファイ」とは何を指すのでしょうか。
高橋:デノンのHi-Fiカテゴリーのフラッグシップモデルであるプリメインアンプ、PMA-SX1のコンセプトは「シンプル&ストレート」です。
このコンセプトはそのままデノンのAVアンプシリーズにも踏襲されています。
たとえば増幅や、ボリューム回路など音質に直接関わる部分は余分な部品を乗せることなく徹底的にシンプルな回路構成にしており、これらはまさにHi-Fiと同じ考え方です。
10年前の回路に比べると、かなりシンプル&ストレートになっています。
音楽ソースの質が向上していますから、色付けすることなくそのままスピーカーをドライブするという考え方ですね。
※「シンプル&ストレート」などPMA-SX1の開発コンセプトを紹介した「SX1の匠たち」はこちら
■「電流リミッターの追放」とは?
高橋:通常オーディオアンプには電流リミッターという安全保護回路がついています。
スピーカーのような低インピーダンスの負荷をドライブする際には瞬間的に大電流が必要となりますが、繋がれるスピーカーによっては
公称値よりインピーダンスが下がる周波数帯があり、想定以上の大電流が流れることがあります。
そこで製品としてアンプ自身で保護することが必要となります。
ただし電流リミッターを付けることは安全性を高めることと反比例して、電流の瞬時供給能力、つまり瞬発力のある再生に対しては足かせにもなってしまいます。
そこで私たちは、電流リミッターによるアンプの保護をやめて、別のより高精度な方法を検討しました。
現在、デノンのAVアンプの保護は個々のトランジスタの直近に温度センサーを取り付けてパワーアンプの全てのチャンネルの温度を
個別に常時監視することで実現しています。
この手法は元々AVアンプから生まれた発想ですが、非常に有用性が高いため、今ではデノンのHi-Fiアンプにも採用されています。
■緻密にトランジスタの温度管理を行うことで、リミッターによって電流を制限しなくてもアンプやスピーカーが保護できるようになったわけですね。
高橋:もちろん温度を管理してアンプを保護する考え方ですから、温度センサーによる監視だけでなく、ヒートシンクやトランスなどのレイアウトの工夫により放熱しやすい構造にする、といったことも重要なポイントだと思います。
また、電流リミッターは追放したといいましたが、安全性は十分確保しており、たとえばスピーカー端子の短絡時のような
電流が異常に流れた際にアンプを保護する仕組みは備えています。
これら機能を緻密に制御することにより、表現に制限がかかることがない再生を実現しています。
■3つめの高精度なグランディングとはなんでしょうか。
高橋:小信号を扱うプリアンプやDACと、大電力のパワーアンプ。
これらのグラウンドをしっかり分けて、しかもそれぞれの電位差が生じないように緻密にグラウンドの設計を行う、というものです。
これは設計の図面のレベル、あるいは機構的なレイアウトの設計によるものですが、何かそのための特別なデバイスを使うわけでないので、
余計なコストがかかるものではありません。
まさに純粋に設計の匠の領域だといえるでしょう。
この考え方により、スピーカーを瞬間的に大電流でドライブしてもその電流の変動がプリアンプやDACに影響を与えることはありません。
こうしたノウハウは我々の先輩エンジニアの方々が60年代~70年代から現代までの間に、Hi-Fiアンプの設計を通して培ってきたものです。
それぞれのオーディオアンプにおける基板設計のパターン一つ一つが、そうしたノウハウの凝縮だといえるのです。
■信号経路のミニマイズとは、具体的にはどんなことでしょうか。
高橋:10年前のAVアンプの天板を開けて回路を見てみると、アナログ入力端子からパワーアンプ回路の入力までおそらく3つぐらいのバッファー回路が入っていたと思います。
バッファー回路を入れるのはノイズへの対策です。
というのもAVアンプはもともと映像系や制御系のデジタル回路が多く、そこからノイズが発生しています。
ですからそれらのノイズに対してオーディオ信号系のインピーダンスをバッファー回路により低くすることでノイズを小さくしていました。
でもこれは、実は「守り」の発想であると考えています。
回路を増やすことでノイズを減らすわけですから。
現在ではAVアンプの信号経路にはなるべくバッファー回路を入れないような設計に変わってきています。
デジタルのノイズはできるだけ外に漏れないような設計とし、さらにオーディオ信号系においては基板上のパターニングやワイヤリングを工夫することで最短の経路を追求することでノイズを拾わないような設計としています。
バッファー回路を使わなければ余計な信号経路やその回路によるサウンドの色付けをカットすることができますから、良好な特性と高音質とを確保できるようになります。
この考え方はシンプル&ストレートに通じるところもありますね。
■最後の「低域特性の改善」とはどういったことでしょうか。
高橋:デノンサウンドの特長のひとつに低域のエネルギー感、質感というものがあると考えています。
これまでデノンサウンドといえば「力強さと繊細さの両立」を訴求してきましたが、その核を構成しているのがここです。
またしっかりとした低域が得られれば、中高域の表現力もガラリと変わってきます。
中高域の繊細なディーテイルを届けるためにはサウンドの土台となる低域の特性が得られてなければいけません。
これらの豊かな表現力を実現するためには、まずは良好な静特性(オーディオ特性)を得ることが必要です。
我々は直流に近いところ、つまり限りなく低い低域まで特性を追い込むことでエネルギッシュな重低音と繊細で高解像な表現力を目指しています。
■AVアンプはサラウンドの再生フォーマットが新しくなったり、機能が増えたりとモデルチェンジのサイクルが早い製品ジャンルですが、デノンはモデルを超えてずっと高音質の追求を続けてきた、ということでしょうか。
高橋:そうですね。
「AVアンプの設計思想が10年前のモデルと設計思想が違う」
というのも、長年の間お客様にご支持いただいたことで、継続的な開発を続けることができた賜物である、と感じています。
また、デノンはHi-Fiオーディオのカテゴリーにおいても、おかげさまで高いシェアをいただいており、多くのオーディオファンの皆さまに支持されてきました。
そこで培われた膨大な技術とノウハウが我々にはありますから、「AVアンプをHi-Fi化して音質を向上させる」という点ではまだまだ伸びしろはあると思っています。
(Part.3ではAVR-X4200Wの「使いやすさ」について設計者、愛甲が語ります)
(Denon Official Blog 編集部 I)