AH-GC30開発者インタビュー
落ちついたデザインと高音質が話題を呼んでいるワイヤレス・ノイズキャンセリング・オーバーイヤー・ヘッドホン「AH-GC30」。今回はAH-GC30の開発者に開発の経緯やノイズキャンセリング機能の進化などについて聞きました。
GPDエンジニアリング 成沢真弥
デノンらしさを重視し、音質にこだわった「AH-GC30」
●まずAH-GC30の開発の経緯について教えてください。
成沢:AH-GC30は、AH-GC20というモデルの後継モデルとして企画されました。AH-GC20は発売されてすでに約4年になるモデルです。AH-GC20はBluetoothとノイズキャンセリングの両方の機能を搭載したモデルとして高く評価されましたが、4年のうちにBluetoothもノイズキャンセリング機能も進化しましたし、ライバルも増えて来ましたので、性能を強化した後継モデルを開発しました。
●AH-GC20の評判は良かったのですか。
成沢:良かったですね。今では当たり前になってしまいましたが、当時はノイズキャンセリングとBluetoothの両方の機能を持っているモデルはまだ数が少なかったこともあります。
●先代AH-GC20から4年を経て、AH-GC30はどんなコンセプトで開発されたのでしょうか。
成沢:今のヘッドホン市場ではBluetooth+ノイズキャンセリングは決して珍しくありません。もしそこにデノンとして新しいヘッドホンを出すのなら「デノンらしさ」を出さないと埋もれてしまう。我々が考えたデノンらしさとは、やはり「音質」でした。とにかく素の音で、いい音がするBluetooth+ノイズキャンセリングヘッドホン。それが開発コンセプトとなりました。
音質を重視し、専用開発のフリーエッジドライバーを搭載。
●AH-GC30では音質の向上を目指したということですが、具体的にはどんな手法で音質を向上させたのでしょうか。
成沢:ヘッドホンにおいてもデノンのHi-Fiオーディオの新しいコンセプトである「ヴィヴィッド&スペーシャス」、つまり目に見えるような、真に迫っていて、広々とした音の良さを追求し、それを実現するためにフリーエッジドライバーを採用しました。
↑AH-GC30に搭載されているフリーエッジドライバー
●ドライバーの変更は大きな変化ですね。
成沢:はい。フリーエッジドライバーは、デノンのオーバーイヤーヘッドホンのフラッグシップモデルであるAH-D9200などのリアルウッドシリーズでも採用しているドライバー方式であり、デノンらしい目に見えるようで、空間の広々とした音質を実現するための「切り札」ともいえるドライバーです。
●ワイヤレスとしての音質面ではBluetoothも重要ではないでしょうか。
成沢:はい。Bluetoothに関しては、先代のモデルから4年近く経っていましたから、新しいBluetoothのフォーマットであるBluetoothバージョン5.0に対応しました。またBluetoothの中でも高音質なコーデックであるapt-Xを採用しており、中でも現在最も高音質なaptX-HDに対応しました。これはワイヤレス接続でありながらハイレゾ相当の音質での再生が可能です。
デジタル方式によってノイズキャンセリング機能もさらに向上。
●ノイズキャンセリングについてもお聞かせください。AH-GC20からどのように進化したのでしょうか。
成沢:AH-GC30はノイズキャンセリングについても大きく進化しました。AH-GC20の時はアナログ方式のノイズキャンセリングでしたが、AH-GC30ではデジタル方式のノイズキャンセリングを採用しています。
↑点灯している部分がノイズキャンセリングのスイッチ。装着したままON/OFFしやすいところに配置されている。
●具体的にいうとアナログとデジタルのノイズキャンセリングではどんな点が違うのでしょうか。
成沢:デジタルになったことでノイズキャンセリングの効果が強力になりました。また以前のノイズキャンセリングはON/OFFだけだったのですが、聴取環境に応じてノイズキャンセリングの効果を変えることができるようになりました。AH-GC30では「飛行機」「シティ」「オフィス」の3つのノイズキャンセリングモードを用意しています。
●ノイズキャンセリングの3つのモードは、どのように違うのでしょうか。
成沢:まずノイズキャンセリング効果の強弱で言うと、飛行機が一番強くてオフィスがいちばん弱いです。ただし飛行機、オフィス、シティでノイズキャンセリング効果のカーブを変えてあります。このあたりはそれぞれの環境での騒音状況に応じて設定した点です。
↑3つのノイズキャンセリング効果のイメージ図。縦軸がノイズキャンセリング効果、横軸が周波数。点線より下側に行くほどノイズキャンセリング効果が高い。一律のノイズキャンセリングの効果の強度の違いではなく、雑音の環境に応じた設定になっている(設計資料より)。
※AH-GC30のノイズキャンセリング機能の使用レポートがデノンブログ「編集部でAH-GC30を使ってみた」に掲載されています。そちらもぜひご覧ください。
ハウジングの外側にあるマイクを利用した「周囲音ミックス機能」。
●ノイズキャンセリングの3つのモードはぜひ読者の方にも実際にご体験いただきたいところですね。それと「周囲音ミックス機能」も搭載されていますが、これはどういった仕組みなのでしょうか。
成沢:電車や空港でのアナウンスやオフィスで声をかけられたときなど、外の音を聞くためにヘッドホンを外さなくてはいけないケースってよくあると思うんです。そこをもっと便利にできないか、ということで開発したモードです。具体的には、ノイズキャンセリング用のマイクが外側についているので、それを利用し、ヘッドホンをしたまま外の音がよく聴けるようにしました。
↑外部の音を拾うために用意されたノイズキャンセリング用のマイク。
●このマイクはどのように使われているのでしょうか。
成沢:AH-GC30にはノイズキャンセリングのマイクがヘッドホンの内側と外側についています。外側のマイクは雑音だけを拾っているので、ノイズキャンセリングの時にはこのマイクで拾った雑音を逆位相にしてヘッドホンのスピーカーで再生します。
●雑音に対して逆位相の音を出すことで雑音を打ち消すわけですね。
成沢:そうです。位相を逆にすることで外から侵入してきた雑音を打ち消します。一方、周囲音ミックス機能がオンの時は、その外から拾った音を、位相を変えず再生して音楽に周囲音をミックスします。
●その場合、ノイズキャンセリングの機能は生きているのでしょうか。
成沢:はい。中高域だけを拾って再生するので、低音などではノイズキャンセリング機能が働いたままです。ですから飛行機や乗り物などで低音のノイズが多い環境であれば、声の帯域のみがミックスされるので話が聞き取りやすくなります。
●周囲音ミックス機能はハウジングを指先で2度コツコツと叩くと起動しますが、これはどういった仕組みなのでしょうか。
↑ノイズキャンセリング機能を使用時に右側のハウジングを叩くと周囲音ミックス機能が起動する。
成沢:これはハウジング内に加速度センサーが入っていて、ある一定以上の加速がダブルで検知したらオンになる、という仕組みです。
●面白いですね。
成沢:加速度センサーがあると重力がどっちを向いているかが検出できるので、AH-GC30の姿勢が分かるわけです。それを利用した機能としては、オートスタンバイ機能があります。これはAH-GC30がどこかに置かれて完全に静止した状態が10分続いた場合、電源を自動的に切る機能です。
●それは便利ですね。私はAH-GC20を使っているのですが、よくノイズキャンセリングのスイッチをオンにしたまま切るのを忘れてしまいます。
成沢:それともう一つ、LEDの部分ですが、手に持ってスイッチを操作している時は明るく光りますが、ヘッドホンを頭にかけると5秒程度でLEDが暗くなります。
↑手に持って操作している時はLEDが明るく光る
↑ヘッドホンをしている姿勢ではLEDが暗くなる
●これはどういう機能なのでしょうか。
成沢:ヘッドホンをつけるとスイッチは自分では見えなくなるのでLEDは光らなくていい、ということと、飛行機などで夜間、周囲が暗くなった時など、ヘッドホンのLEDが明るいと周りにも迷惑になるかもしれません。そうした配慮です。ただ全く消してしまうと動作状況がわからないので、暗くすることにしています。
ノイズキャンセリング機能や周囲音ミックス機能を、ぜひ一度、店頭で体験していただきたい。
●AH-GC20はブラックモデルだけでしたが、AH-GC30にはホワイトモデルもラインナップされています。
成沢:そうですね。AH-D1200でもホワイトモデルをラインナップしていますが、ホワイトモデルは、やっぱりずいぶん印象が違いますよね。可愛いらしい色合いで、女性のお客様にも使っていただけるのではないかと思っています。
AH-GC30(ホワイトモデル)
●また、今回はAH-GC30の兄弟モデルとして、ワイヤレス機能だけのAH-GC25W、ノイズキャンセリング機能だけのAH-GC25NCもラインナップされました。これはどういう趣旨なのでしょうか。
成沢:お客様によっては、Bluetoothはいらないという方もいらっしゃいますし、またノイズキャンセリング機能は使わないという方もいらっしゃいます。そういう方々にもご購入いただけるように、要らない機能は省いてその分価格を下げたモデルをラインナップしました。基本的にはAH-GC30からの引き算だと思っていただいていいと思います。
●ノイズキャンセリングのみのAH-GC25NCはユニークですね。
成沢:AH-GC30は有線接続のヘッドホンとしても、音的にかなり進化していますので、ケーブル付きのAH-D1200などの購入を検討されている方には、AH-GC25NCはノイズキャンセリング機能もついて、サウンド的にもさらに良くなっているヘッドホンとしてオススメできる製品となっています。
●今回AH-GC30の開発で苦労したのはどんな点でしょうか。
成沢:ノイズキャンセリング機能のON/OFFで音が大きく変わるヘッドホンがよくあるんです。それをAH-GC30では極力なくすようにしました。先程少し言及しましたが、フリーエッジドライバーは、必ずしもノイズキャンセリング機能に向いているドライバーユニットとは言えません。それでフリーエッジの部分に細かくスリットを入れたりして、エッジの硬さや動きやすさを調整しながら、ノイズキャンセリング機能のオン/オフの音があまり変わらないようにしつつ、いずれもデノンの「ヴィヴィッド&スペーシャス」を実現したサウンドにする、というところで苦労しました。
●ノイズキャンセリング機能や周囲音ミックス機能は、かけ心地といっしょで実際に試してみないと実感できない機能ですよね。
成沢:そうなんです。ですから、ご興味を持たれた方は、ぜひ店頭でAH-GC30の音質とかけ心地、そしてノイズキャンセリング機能、周囲音ミックス機能をお試しいただきたいと思います。
本日はありがとうございました。
(編集部I)