600NEシリーズ開発者インタビュー
デノンのHi-Fiシステムに新たなエントリーモデル「600NEシリーズ」が登場しました。今回はNEシリーズのプリメインアンプ「PMA-600NE」とCDプレーヤー「DCD-600NE」の開発コンセプトやエピソードについて、開発に携わったCSBUデザインセンターの新井 孝と高橋秀聡にインタビューしました。
●まず「600NEシリーズ」の製品コンセプトについて教えてください。
新井:600NEシリーズは、2500NEシリーズから始まったNEシリーズのエントリーモデルとして企画されました。これまでデノンHi-Fiのエントリーモデルとしてはプリメインアンプが1991年に発売された「PMA-390」、CDプレーヤーが2000年に発売された「DCD-755」があり、これらがモデルチェンジを繰り返してきましたが、600NEシリーズがその後継となります。
CSBUデザインセンター マネージャー 新井 孝
●エントリーモデルとしてはPMA-390が28年間、DCD-755が19年間と長い期間ラインナップされてきたわけですが、600NEシリーズでサウンドは大きく変わるのでしょうか。
高橋:NEシリーズはサウンドマネージャーが山内になってから展開されたシリーズで、山内が掲げるデノンのサウンドフィロソフィー「Vivid & Spacious」を基本コンセプトとしています。それまでのデノンサウンドとは若干音の方向性が変わり、空間の表現力が増したと思います。
CSBUデザインセンター 高橋 秀聡
新井:やはりデノンサウンドと言うと「ピラミッド型で中低域がどっしりしている」と表現されることが多くて、NEシリーズになるまでは空間表現力に関してはあまり言及されなかったと思います。今回は伝統的なデノンの音の安定感は引き継ぎながら、山内が言う「Vivid & Spacious」つまり空間的な表現が増すような形で大きく進化しています。
PMA-600NEはADコンバーターとBluetooth機能を搭載した多機能なプリメインアンプ
●では、最初にプリメインアンプ PMA-600NEの特長についてお願いします。
新井:PMA-600NEは主に私が開発を担当しました。先ほど申しましたように先代のPMA-390は非常にロングライフで多くのオーディオファンに愛されたモデルでしたが、あえてPMA-600NEと品番を変えました。これは先代を引き継ぐのではなく、PMA-2500NEから始まったNEシリーズの新たなエントリー機として位置づけるという意志表示です。機能としては、PMA-2500NE、PMA-1600NE、PMA-800NEと同様に、本体にD/Aコンバーターが内蔵されています。
PMA-600NE
●D/Aコンバーターの搭載は、データ配信への対応ということでしょうか。
新井:そうです。日本国内ではまだCDは売れていますが、世界的にはCDによる音楽再生は減少していて、リスニングの主流はデータ配信やストリーミングによる音楽再生へと移行しつつあります。パソコンやスマホ、タブレットから音楽を再生するお客さまが増えていますので、アンプ側にD/Aコンバーターを内蔵しました。
●Bluetooth機能の搭載も同じ理由でしょうか。
新井:はい。特にPMA-600NEのようなエントリー機は、ミニコンからステップアップする方も多いのですが、ミニコンはBluetooth機能が搭載されているのが普通です。ですからデノンのHi-Fiとしては初ですがBluetoothに対応しました。またサブウーハープリアウトも搭載しました。こちらもミニコンでよくあるのですが左右のチャンネルは小さなスピーカーを使いつつ低音はサブウーハーで補強するという再生スタイルに対応します。サブウーハープリアウトの搭載も、デノンHi-Fiとしては初となります。
PMA-600NEのリアパネル、SUBWOOFER出力が用意されている
●その他にはどんな機能がありますか。
新井: DACを使わない音源を再生する際に使う「アナログモード」を搭載しました。これはデジタル入力回路への給電を止めて高周波ノイズの発生を防止するものです。このあたりはデノンHi-Fiの音質へのこだわりと言えると思います。
デジタルオーディオ回路からの輻射ノイズによる音質への悪影響を抑えるため、デジタル入力基板はシールドケースに封入されている
ディスク再生にフォーカスし、上級機に迫る再生能力を実現したDCD-600NE
●高橋さん、CDプレーヤーのDCD-600NEについてご説明ください。
高橋:今、新井がご説明したようにアンプの方は多機能化していますが、CDプレーヤーは逆でCD再生に特化する流れになっています。機能面では、先代のDCD-755REに搭載されていたヘッドホン端子とUSB端子が削除となりました。
●CDプレーヤーにあるヘッドホン端子を使う人があまりいないとうことでしょうか。
高橋:そこは利便性と音質のバランスですが、音質を重視してヘッドホン端子を削除しました。
新井:少し補足しますと、CDプレーヤーのアナログの出力回路はリアパネル側にありますが、ヘッドホン端子は前面に来ますから、どうしても信号を前まで引き回すことになりますが、これはミニマム・シグナル・パスの考え方からすれば、音質にはネガティブです。またヘッドホン出力はアンプを通さないのでボリュームコントロールが必要になります。ボリュームが付くとその部分はインピーダンスも高くなりますから、やはりノイズの問題が出てきます。
●回路設計をシンプルにすることで音質向上を図ったということでしょうか。
高橋:はい。DCD-600NEは特にミニマム・シグナル・パスを重視していて、たとえば先代のモデルには基板が3枚使われていましたが、今回はUSBやヘッドホン回路の削除により、シンプルな2枚構成としました。また基板をつなぐコネクタやケーブルや電源の配線も最小限の長さにすることで、高音質を追求しました。
●DCD-600NEでは、その他に音質向上のためにどんなことをしているのでしょうか。
高橋:先代同様にデノン独自のアナログ波形再現技術「AL32 Processing」を搭載しています。独自のアルゴリズムによってCDに記録された16bitの信号を元に32bit化し、原音に忠実なサウンドを再現する技術です。また上位モデルの800NEシリーズなどで使用されている高品位な音質コンデンサーも一部そのまま継承することで、上級機に迫る音質を実現しました。
↑DCD-600NEはアナログ波形再現技術AL32プロセッシングを搭載
↑上位モデルDCD-800NEで採用されたカスタムコンデンサーを継承している
フット形状の変更や回路構成の見直しなどでコストをかけずに音質向上を
●600NEシリーズはエントリーモデルということで、コスト面での制約が大きかったと思いますが、その点はどうやって克服したのでしょうか。
新井:今回は開発の早い段階から山内が入ってコストとの折り合いを見ながら先に音を決めていきました。開発の後半で音質が思うように決まらず、音を向上させるためにいろいろ追加することで、結果コストアップすることがあるんですが、今回は先に音を決めたのでコストも上がらず、仕上がりの完成度も高くなっています。
●コストをあまりかけないで音質を向上させた例にはどんなものがありますか。
新井:音質向上で効いているものの1つがフットです。エントリーモデルなので上位モデルのように特別な素材は使えませんが、リブを厚くして高密度にした剛性の高い物に変更しました。ドライブメカや電源トランス、シャーシ質量が大きいものを安定して支えることで音質向上に一役買っています。
↑PMA-600NE、DCD-600NEはともに高密度で剛性の高い新たなフットを使用
●フットを変えると音も変わるのでしょうか。
新井:かなり変わりますね。それともう一つ、プリメインアンプでは回路設計でグランド周りを整理したのも大きなポイントです。
●「グランド周りの整理」とはどういうことでしょうか。
新井:電源は出たら絶対帰ってくるんです。だから回路と言うわけです。今回PMA-600NEにはデジタルの回路も入ったので、多種多様な回路がありますが、帰り道が同じだからといって乗り合いバスみたいに雑多な信号が流れ込むとグランドが揺れたりノイズが乗ったりしてしまって、ノイズの原因になります。それを避けるためパワーアンプに行った回路はそのままスピーカーから帰ってくる、デジタル系の回路はデジタル系だけで独自に帰ってくるというようにグランド周りの回線を整理しました。ここを今回かなりシビアに行ったことで、音の明瞭度があがり、空間の見通しが良くなったと思います。
アンテナ内蔵型のBluetooth回路を取りつけるのが大変だった
●600NEシリーズの開発で特に苦労した点はありますか。
新井:最も苦労したのはPMA-600NEのBluetooth基板の取りつけ場所ですね。AVアンプやミニコンにはBluetoothが搭載されていますが、たいてい外部アンテナが取りつけられています。ところが今回のPMA-600NEはHi-Fiなので、無骨なアンテナは付けないことになりました。ただHi-Fi製品は金属シャーシなので、アンテナ内蔵型のBluetoothでは通常十分な性能が出せないんです。
高橋:デノンにはBluetoothの性能についてかなり厳しい社内の規格があって、30メートル届かないといけないんです。でもBluetoothって金属で遮蔽されていたら、シャーシ自体が遮蔽物となってしまうので
30メートルなんて届かないんですよ。
●それでどうしたんですか。
新井: PMA-600NEの外装部分で金属でない部分を探したんです。ほとんど金属なんですが、たった一カ所だけ、本体の横に小さなプラスチックのパーツがあったんです。もう絶対にここしか取りつけられない。
↑PMA-60のこの部分だけがプラスチック製だったため、この裏にBluetoothのアンテナ基板が装着された
高橋:それでここにぴったりBluetoothのアンテナ基板が来るようにして試作品を作り、白河工場の製品試験場で予備実験を行いました。結構苦労しましたが、なんとか基準をクリアできることがわかり、ホッとしました。PMA-600NEのBluetoothは最終的には角度によっては60メートルまで届く性能を持っています。
●最後に、デノンブログの読者のみなさんに、600NEシリーズをどのように聴いていただきたいか、メッセージをお願いします。
新井:デノンHi-Fiの高音質は実現しつつ、Bluetoothを搭載してスマホやパソコンの音楽が聴けるようになっていますので、ぜひ気軽にいい音で音楽をスピーカーで楽しんでいただきたいと思います。600NEシリーズがHi-Fiオーディオの入り口になれば嬉しいと思います。
高橋:前のエントリーモデルの音色と、今回の600NEシリーズとの音色では、サウンドコンセプトが大きく変わっています。ですから以前のPMA-390やDCD-755といったエントリーモデルをお持ちの方も、ぜひ一度お店で、新しいデノンのサウンドフィロソフィー「Vivid & Spacious」に基づいたサウンドをご試聴いただき、デノンHi-Fiオーディオの進化を体験してほしいと思います。
●今日はどうもありがとうございました。
(編集部I)