超初心者のための「カートリッジって何?」
CDやストリーミングと並ぶリスニングスタイルのひとつとして、アナログレコードがますます人気を集めています。それにあわせてアナログレコードプレーヤーも大人気。デノンからも創立110周年モデルとして専用ヘッドシェル付きMC型カートリッジDL-A110を発売しています。ところでカートリッジってどんなものなのでしょうか。その仕組みは? そんな疑問にデノンオフィシャルブログがお答えします。
そもそもカートリッジって?
そもそもカートリッジとはなんでしょうか。世の中にはカートリッジっていろいろありますよね。たとえば万年筆のインクもカートリッジ。ゲームのROMカセットもカートリッジ、プリンターなどのインクもカートリッジです。
調べてみると、カートリッジ=Cartridge(英語)とは「必要とされる機能をパッケージした比較的容易に交換可能な部品」を意味する言葉で、オーディオ機器でカートリッジと言えばレコードプレーヤーの針を含むピックアップ部分を指します。
ちなみに今年、デノンからも創立110周年記念モデルとしDL-A110という専用ヘッドシェル付きMCカートリッジを発売しています。
では具体的に、レコードプレーヤーのどの部分がカートリッジなのでしょうか。
レコードプレーヤーのピックアップ部分はトーンアーム、ヘッドシェル、カートリッジで構成されています。
上の写真の黄色い丸の部分がカートリッジです。カートリッジは一般的にヘッドシェルにねじ止めされています。そしてヘッドシェルはトーンアームとコネクターでつながっています。
デノンのカートリッジ「DL-103」
カートリッジ単体でみると上の写真のような感じです。カートリッジの一部はレコードの盤面に接する針(スタイラス)とそれを支持するカンチレバーで構成されています。ちなみにカンチレバーとは「片持ち構造」という意味で、一端が固定され、他端が自由端とされた構造体のことです。
カンチレバーとは(Wikipediaより)
下の左の写真はカートリッジのケースを外したところ。先端の細い棒がレコード盤面に触れる針先(スタイラス)とカンチレバーです。右の写真はレコード盤面上のスタイラスとカンチレバーです。
デノンのカートリッジDL-103のケースを外した状態(左)、レコード針の先の拡大写真(右)
カートリッジには「MM型」「MC型」がある
次にカートリッジの仕組みを簡単にご説明しましょう。
アナログレコード再生の仕組みは回転しているレコードの音溝に針を落とし、針とカンチレバーを振動させ、その振動を電気信号に変換してアンプで増幅し、その増幅された信号でスピーカーを振動させることで音楽が再生されます。カートリッジはその入口のレコードの盤面の音溝に記録された信号をピックアップする働きをする部分です。
上の写真はレコードの音溝を顕微鏡で見た写真です。
かなり蛇行していますよね。この溝を針が走ることで針が振動し、その振動を電気信号に変換します。針の振動はカンチレバーに伝わり、カンチレバーの動きが電気信号に変換されます。電気信号に変換するためにはコイルと磁石を使います。磁界が動くことでコイルの中に微弱な電流が生まれます。
カートリッジはこのコイルと磁石を配置する構造によって主にMM型とMC型の2つのタイプに分けられます(MM型、MC型以外のタイプもあります)。それぞれの方式と、特長についてご説明します。
●MM型
カートリッジで一番多い方式が「MM型」です。MMとはムービングマグネット「Moving Magnet」の略。カンチレバーにマグネットが取りつけられており、カンチレバーの動きによってマグネットが振動することでコイルに出力電圧が生まれます。
特長としては後述するMC型よりも振動系構造がシンプルで、針交換が可能です。そして量産対応が可能なため価格も比較的安価です。
出力も約3mVとMC型の10倍程高く、アンプのフォノ端子にそのまま接続すれば再生できます。コイルの巻き数を増やせば出力を容易に変えることも可能です。
製造しやすい構造と特性を出しやすいことから安価なものから高級機まで種類が多岐にわたります。
●MC型
もう一方の方式は「MC型」です。MCとはムービングコイル「Moving Coil」の略です。構造としては下図のようにカンチレバーの後端にコイルが巻かれていて、マグネットがその向かい側にあります。こちらはコイルが動くことで出力電圧が発生します。
MC型ではカンチレバーの後端の狭い場所(ボビンとかアーマチュアと言います)にコイルを巻く必要があります。その後の特性出しの調整にも職人技を要する精巧な手作りのため量産対応は難しく価格帯はMM型よりもやや高価なものが多いです。
メリットとしては発電部分の構造上、振動系の支点が明確なために一般的に余計な振動の変調を受けづらくクリアーな音質が得られると言われています。また音溝に対して発電系が直接的なことによる音の切れの良さもMC型の特徴と言ってよいと思います。
その反面デメリットとしては振動系に巻くコイルの巻き数が大きく増やせないのでMM型より出力が低いため(0.3mV程度)、MC型に対応したプリ(メイン)アンプ、もしくはカートリッジの出力を増幅する「ヘッドアンプ」「昇圧トランス」などのMC専用機器が必要になります。
ヘッドシェルって何? どんな働きをするの
最後にヘッドシェルについても説明しておきましょう。
ヘッドシェルとはトーンアームにカートリッジを取り付けるためのアダプターで、カートリッジから出力された微細な電気信号をリードワイヤーを通してトーンアームケーブルに送ります。カートリッジはヘッドシェルの先端にあるビスで固定されます。
下の写真で手にしているのはトーンアームとヘッドシェルです。細い線(リードワイヤー)が見ますが、ここにカートリッジをつなぎます。
ヘッドシェルではその素材や重さの違いが音質に影響を与えます。
一般にヘッドシェルの素材はプラスチックやアルミニウムなどの金属が使われますが、それぞれ少なからず音質に影響があります。加工がシンプルで強度が取れるため軽量の金属で作られているものが一般的です。
ヘッドシェルの重量は特性に影響します。トーンアームを含めた振動系全体の重量に与える影響が大きいためレコードプレーヤーのピックアップ部はカートリッジ、シェル、トーンアームの全体を含めたトータルのバランスで考える必要があります。
上の写真はDL-A110のヘッドシェルです。デノンのMCカートリッジの定番「DL-103」が開発されたときに同時に製作された専用のヘッドシェルを復刻したものです。素材はプラスティックで重量も軽めとなっています。このヘッドシェルに関してデノンブログのインタビューでDL-A110の開発者はこのように語っています。
●DL-103のシェルには特別な素材が使われているのでしょうか。
岡芹:いや、新素材を使っているわけでもなんでもなく、普通のプラスチックですよ。よく「DL-A110のヘッドってなんでプラスチックなの?」って言う人もいますが、これには理由があって、まず鳴きがない、そして音色の色づけがない。ヘッドシェルによってカートリッジの音がかなり変わるんですが、このDL-A110のヘッドシェルではDL-103の音がそのまま出ます。音の色づけを全くしない。その理由の1つがプラスチックという素材にあります。加えてDL-103と一体になるような形状としています。
「デノン創業110周年記念コンテンツ8 ヘッドシェル付きMC型カートリッジDL-A110開発者インタビュー」より
このようにヘッドシェルの素材、形状、重量には様々な考え方があり、メーカーの音楽に対する思想が具現化されているパーツだとも言えるでしょう。ご興味を持たれた方は、ぜひ「デノン創業110周年記念コンテンツ8 ヘッドシェル付きMC型カートリッジDL-A110開発者インタビュー」もご覧ください。
(編集部I)