オノ セイゲン+サウンドマネージャー高橋対談vol.1 「オノ セイゲンとデノンの深い関わり」
日本を代表するプロデューサー/録音エンジニア、オノ セイゲン氏が主宰するサイデラ・マスタリングにデノンのAVアンプ「AVC-A110」が導入されました。デノンオフィシャルブログではオノ セイゲン氏とAVC-A110の開発時、サウンドマネージャーであった高橋佑規との対談をシリーズでお送りします。第1回はオノ セイゲン氏と、デノン(日本コロムビア)との深い関わりについて。
※オノ セイゲン氏と高橋佑規との対談はリモートで行われました。
BETTER DAYSレーベルの仕事で日本コロムビア当時の赤坂スタジオに「住んでいる」みたいな時代があった
●オノ セイゲンさん、デノンオフィシャルブログへのご登場ありがとうございます。このたびサイデラ・マスタリングにAVC-A110を導入いただきました。その導入の理由やイマーシブオーディオへの取り組みなどについて、AVC-A110の開発時、サウンドマネージャーであった高橋さんと対談していただきたいと思います。AVC-A110の話に入る前に、オノ セイゲンさんはデノン、日本コロムビアとの関係が深いと聞きました。そこからお聞かせください。
オノ セイゲン(以下オノ):1980年頃、日本コロムビアのBETTER DAYS※というレーベルのアーティストを手掛けていましたが、あのころはあまりに長時間スタジオにいたので、ほとんど日本コロムビアの当時の赤坂スタジオに住んでいるような感じでした(笑)。
※1977年に生まれたレーベル。かつて坂本龍一、渡辺香津美、清水靖晃など、のちに音楽界に多大な影響を与える存在をデビューさせ、KYLYN、マライア、カラード・ミュージックなど数々のアーティストを送り出し、その先鋭的なアプローチと圧倒的なクオリティで70年代から80年代を駆け抜けた伝説のレーベル。
高橋:セイゲンさんというと音響ハウスのエンジニアというイメージが強いです。
本対談は撮影を除きリモートで行われました。撮影はサイデラ・マスタリングにて
オノ:例の映画のせいです。2時間初期反射音の話をして、シティポップじゃない部分カットしたら2分だけ残りました(笑)音響ハウスには実は78年から80年までの2年しかいなかったんです。アシスタントだったのでフイルムの映写係やCMのナレーションを編集したり、映像の仕事が主でした。アシスタントとして唯一クレジットされたのは松任谷由実の「SURF & SNOW」というアルバムでした。
松任谷由実のアルバム「SURF & SNOW」を手にする高橋佑規(ディーアンドエムホールディングス 白河ワークスよりリモートで参加)
高橋:「SURF & SNOW」は名盤ですよね。僕も大好きなアルバムです。音響ハウスの後、日本コロムビアのBETTER DAYSレーベルにはどんな経緯で参加されたのですか。
オノ:アーティストからの指名でした。日本コロムビアのスタジオにフリーランスで入ったのは僕が初めてだったようです。当時日本コロムビアは赤坂にスタジオを持っていたんですが、社内のエンジニアしか入れなかった。アーティストの指名があったとはいえ、社外のエンジニアを入れていいのかということで僕の経歴書が取締役会まで行って音響ハウス出身ということでOKになったそうです。22歳の時でした。
高橋:BETTER DAYSではどんなアーティストを担当していたのですか。
オノ:当時僕が関わったアーティストは清水靖晃、Mariah(マライア)、ラウドネス、北島健二、渡辺香津美など。渡辺香津美さんとはその後のDOMOレーベル(ポリドール、今はユニバーサル)につながりました。あの頃の彼らのサウンドはニューウェーブだったので、変わった音を録りたいわけですよ。それって年上の40歳のチーフエンジニアとかだとやりにくいんだよね。4つぐらい年下の僕には「小野くん、こんなのできないかな」って言いやすいわけ。僕も自分の音があるわけでなし、はじめて2年目ぐらいだから、言われるままにやっちゃったんです。
●日本コロムビアといえば当時は美空ひばり、島倉千代子、都はるみなど、日本の歌謡曲の王道のイメージですが、一方で超最先端の音楽を作っていたのは面白いですね。
オノ:懐が広かったんだと思います。日本コロムビアのスタジオは、昼間はディレクターと歌手と事務所の人がいて歌謡曲を録音していて、夜になるとBETTER DAYSの先進的なアーティストたちに自由にスタジオを使わせてくれました。だいたい僕らは夕方6時や7時にスタートして夜中まで、時には朝までレコーディングして、そんな中から新しい音楽がたくさん生まれました。
Mariahの「うたかたの日々」の頃はアルバム1枚に、延べ200時間から400時間は使っていたんじゃないかな。その頃の僕はコロムビアの録音課の誰よりも長くスタジオを使っていて、夜中ばかりなのでそこに住んでいるような状態でした。でもそんな中で「小野くんたち、明日は来たらダメだから」っていう日があって、それが美空ひばりさんのレコーディングの日。その日は全館貸切になるんです。翌日「どうだった?」って社員のアシスタントに聞くと「お弁当が3段のお重ですごかったです」とか、なるほどーでした(笑)。
アーティスト名:Mariah
アルバム・タイトル:うたかたの日々
アーティスト名:渡辺香津美
アルバム・タイトル:Mobo 倶楽部
19分05秒から 47秒あたりで聴けます
日本コロムビアの録音課とオーディオ部門(デノン)はすぐ近くにあった
●デノンは当時日本コロムビアのオーディオ部門だったわけで、レコードとオーディオ機器を両方とも作っていたわけですよね。
オノ:そうです。当時は日本コロムビアの録音課とデンオン(オーディオ部門)がすごく近くて、いま思えばきっと技術者と録音課がとても理想的な役割をしていたということです。コロムビアの録音課が、デンオンのオーディオ機器の音のチェックをするみたいなところがありましたね。録音した音を知ってるわけですから。世界初のデジタル録音も日本コロムビア(デノン)だったしね。
高橋:私もOBや先輩方から世界初のデジタル録音機を開発した時の話やCD黎明期の話など、日本コロムビア時代の話は数多く伺っています。音楽のソフトとハードの両方を近い場所で作っていたところがデノンの強みになった、ということでしょうか。
オノ:そうです。それはとても大事なことです。録音課のミキサーがデジタルレコーダーを作れるわけがないですよね。日本コロムビアにはオーディオの部門があり、録音と機材の両方ができる穴澤さんみたいな天才がいたからこそ、商業デジタル録音を実現できたわけです。
サイデラ・マスタリングではデノンのCDプレーヤー、レコードプレーヤー、AVアンプを使用
●デノンの音響機器について、オノさんはどんな印象をお持ちですか。
オノ:デノンのオーディオ機器は昔から使ってましたよ。1984年の事務所のオーディオのプリメインアンプは昔からデノンでした。
高橋:サイデラ・マスタリングには何度もおうかがいしていますが、現在もデノンの製品をたくさん使っていただいていますよね。いくつか紹介頂けますでしょうか。
オノ:まずレコードプレーヤーがデノンのDP-500Mです。カートリッジはデノンのDL-103ですね。趣味趣向のオーディオではなく放送局用というか、極力味もそっけもない原音そのままのクオリティ確認ということです。レコードのカッティング現場でもチェックにDL-103を使っていることが多いです。それとCDプレーヤーもデノンのDCD-SX1を使っています。
高橋:マルチチャンネル用アンプにはAVC-X8500Hを2台導入いただきましたが、1人で2台買われた方は、私が知る限りではオノ セイゲンさんだけです。
サイデラ・マスタリングに導入されているデノンのレコードプレーヤー「DP-500M」
サイデラ・マスタリングに導入されているデノンのCDプレーヤー「DCD-SX1」
マルチチャンネルのアンプとして導入されたデノンのAVアンプ「AVC-X8500H」
●デノンのオーディオを多く使っている理由を教えてください。
オノ:デノンのオーディオ機器は色づけが少ないですね。音楽制作の現場では、とりわけサラウンドやイマーシブでは「色づけがない」ことが大事で、レコードで言えば、どんなに高いプレーヤーでもカートリッジで色づけがあるのはリスニングの趣味趣向としてはもちろんいいのですが、作る側ではワインのテイスティング・グラスのように無色透明でないと、中身の微妙な、繊細な味の違いがわかりにくいですよね。
言うなればここにあるデノンは、僕の料理道具の一部です。そしてカートリッジよりも音が大きく変わるのはスピーカーです。そしてアンプはスピーカーの駆動に直接関わるので、極めて重要です。
サイデラ・マスタリングはイマーシブオーディオに対応していて、マルチチャンネルアンプが必要なので、AVC-X8500Hを2台導入しました。そして先日さらにAVC-A110を導入しました。
2021年1月にはデノンAVアンプの新たなフラッグシップモデル「AVC-A110」が導入された
●ありがとうございました。パート2ではサイデラ・マスタリングに新たに導入されたデノンのAVアンプの新たなフラッグシップモデル「AVC-A110」についてお話を聞かせてください。
Profile
SEIGEN ONO(オノ セイゲン)
レコーディングエンジニアとして「坂本龍一/戦場のメリークリスマス」、ジョン・ゾーン、アート・リンゼイ、デイヴィッド・シルヴィアン、マンハッタン・トランスファー、オスカー・ピーターソン、キース・ジャレット、マイルス・デイビス、キング・クリムゾン、渡辺貞夫、加藤和彦、今井美樹(2015「Premium Ivory-The Best Songs Of All Time-」のマスタリング)など多数のアーティストのプロジェクトに参加。1996年「サイデラ・マスタリング」を開設。CD、SACDなどのマスタリング、ミキシング、ライブ、DSDレコーディグ、立体3Dサラウンドについても各オーディオ規格の当初から取組み、DSDライブストリーミング、音響空間のコンサルティングなども手がける。またアーティストとしては1987年に日本人として初めてヴァージンUKと契約。同年、コム デ ギャルソン 川久保玲から「洋服が奇麗に見えるような音楽を」という依頼によりショーのためにオリジナル楽曲を作曲、制作。
(編集部I)