オノ セイゲン+サウンドマネージャー高橋対談vol.3「AVC-A110はイマーシブサウンドを創るクリエーターのツールになる」
日本を代表するプロデューサー/録音エンジニア、オノ セイゲン氏が主宰するサイデラ・マスタリングにデノンのAVアンプ「AVC-A110」が導入されました。デノンオフィシャルブログではオノ セイゲン氏とAVC-A110の開発時、サウンドマネージャーであった高橋佑規との対談をシリーズでお送りします。第3回はイマーシブサウンドへの取り組みとリマスタリングのフィロソフィーについて。
※オノ セイゲンさんと高橋佑規との対談はリモートで行われました。
オノ セイゲン、サウンドマスター高橋対談の第1回、第2回はこちら
ステレオからサラウンド、そしてイマーシブへ
●オノ セイゲンさんは録音・マスタリングエンジニアとしてシーンの最先端で活躍されていますが。さらにアーチストとしても活動されています。
オノ:もともと音楽が好きでしたが、エンジニアになろうと思って勉強してきたわけじゃないんです。輸入レコードのクレジット見て買いますよね。プロデューサーやミュージシャン、エンジニアやスタジオの名前も自然に覚えて。そして音楽の現場で仕事がしたいと。音響ハウスのあとは楽器周りから制作、ライブやスタジオの仕事が多くなってきて、なんでも引き受けてるうちに制作を任されるチャンスもでてきて、気がつくとソロアルバムがJVCから出ることになったりしたんです。
僕自身はリーダーですがミュージシャンとしてはアマチュアで、僕以外は現役バリバリのプロのミュージシャンを集めてるSeigen Ono Ensembleがあります。1994年と1995年にスイスのモントルー・ジャズフェスティバルにも出てるんです。日本でもやれないかということで2000年にプルーノート東京のブッキング担当だった宮本端くんが、ヨーロッパでしか活動してなかったSeigen Ono Ensemble をブッキングしてくれて。
本対談は撮影を除きリモートで行われました。撮影はサイデラ・マスタリングにて
ブルーノート東京は大きな四角い箱で吸音がよくできていて、PAシステム依存ですがとてもコントロールしやすいデッドな空間なのです。そこで、僕のライブの時にブルーノート東京の天井に残響成分を付加する無指向性スピーカーを8個設置しました。ちょうど1999年発売のSony 「DRE S-777 Sampling Reverb」の開発チームに入れてもらっていました。インパルス応答と畳み込みで空間の響きをまるでそこにいるように再生成できる。それによって楽器音はステージと前方のメインスピーカーから少し、残響音は上から降ってくるようにしたんです。いわばイマーシブをライブ会場でやったんです。
それによって明瞭度はあるのに響きが豊かで、しかも曲ごとにプリセットを切り替えてホールのような響きになったり、カテドラルのような響きしたり、響きを少なくしたり。曲ごとに響きを変えられるので、本当のホールではできないことをやってみたんです。一番びっくりしたのは、毎日そこで働いているブルーノート東京のスタッフで「なんで今日はまるでコンサートホールのような響きなの?」って(笑)。
曲ごとにコンセルトヘボウ、Stヴィンセントの響きになったり、楽器のダイレクト音はステージから、響きはホールのように天井からというIRリバーブを付加する仕掛けがその時、導入されたのでした。「チック・コリアはガチで絶賛してました。あそこ、箱としてはデッドですからね。」(宮本氏談)一般的に残響とは、コンサートホールや教会であれば壁面や天井から降ってくるものですね。
高橋:世の中がいよいよ5.1chを本格的に形にしようとしている中で、既に縦方向の音場を意識してホールのサウンドをデザインされていたということですよね。非常に高い先見性を感じます。セイゲンさんはエンジニアである以前にアーティストですから、技術ありきの表現ではなくて、スタートの時点で音楽の表現はこうあるべきだというビジョンがしっかりとしているということだと思います。
AVC-A110の開発を担当した高橋はデノン白河ワークスよりリモート参加
オノ:そんなことまで考えていたわけじゃないんですよ。ただ昔からどんなミュージシャンもいい音の楽器が欲しい、我々はいい音に夢中になりますよね。いい音のライブハウスでやりたい、するといい演奏なんですよね。高橋さんもジャズ・ミュージシャンじゃないですか!ギターまで自作してますよね(笑)そのポリシーは信頼できますねえ。SACDで5.1chが録音再生できると知った時に、僕にとってはそれは最高の楽器に出会ったようなもので、果たしてリスナーに普及しているか、商売として成功するかは別問題で、これからはDSDでサラウンドだよ、となってしまったわけです。
高橋:普通は例えそのコンサートホールがデッドだったとしてもその枠の中でできることを考えるものですが、セイゲンさんのアプローチは常人の発想を超えていると思います。
オノ:ブルーノート東京に限らず、響きがないところにリバーブをつけることはできますが、クラシックのホールでダンスミュージックをやることはできません。2階席なんかMCだって何言ってるかわからないくらい響いてますよね。
アーティスト名:セイゲン・オノ・アンサンブル
アルバム・タイトル:at the Blue Note
●セイゲンさんは近年はサラウンドやイマーシブサウンドに積極的に取り組んでいます。それはどうしてですか。
オノ:5.1chサラウンドでは音は水平方向だけですが、イマーシブになるとハイトを立体的に使えるので響きを上に分離できます。実際Dolby AtmosにしてもAuro3DにしてもDTS:Xにしても、クラシックのホール収録などでは、上からの要素は響きの成分が多いんです。これは実際のコンサートホールの壁や天井の反射音の集まりが響きですから、楽器が正面にありダイレクト音が一番大きいですから、正面の響きはダイレクト音にマスキングされ、相対的に天井や壁から降り注ぐように響きに包まれるということです。
高橋:上側に向けて残響成分だけ再生するとは、かなり斬新なアプローチですね。楽器の直接音と響きの間接音を分離することで、クリアネスと響きの両方が実現できたということでしょうか。
オノ:そうです。楽器のダイレクト音は目の前から来て、響きは上や横から聴こえるのが自然です。逆に言えば、2chステレオにミックスダウンするのは常にマスキングとの戦いです。前方の2つのスピーカーに全部の音と空間も入れなきゃいけないので、位相もそうなんだけど余計な要素がいっぱい入ってきたり、柔らかく弾くと他の楽器のリバーブに埋もれちゃう、ということもよく起きます。自然ではないことを自然に美しく聴かせないといけないのですから。
よくあるのが、名盤と言われている音源がSACDで5.1チャンネル化すると「あ、こんなことをやっていたのか」と今まで聴こえていなかったフレーズが聴こえたりする。埋もれていた音が、少し音の位置を分離することで聞こえるようになるんです。スカスカになってしまい、音楽的にはカッコ悪いリミックスも多い。自分のアルバムは2000年から最新のアルバムまで、SACDのマルチチャンネルにしています。SACDの5.1chが出た時これでやりたいことができるなと。今後はハイトを加えたイマーシブオーディオにも対応していく予定です。
高橋:ステレオの狭いキャンバスに押し込められていたものが、音のフィールドを広げることで、奥に隠れていたものが見えてくる、これでイマーシブになるとさらに広い音場が使えるわけですね。
オノ:最近イマーシブばかり流行ってきて「4チャンネルや5.1チャンネルの失敗例をもう一回しないように」と言う人がいますが、僕は5.1チャンネルが失敗だったとは捉えていなくて、単に聴く人が少なかっただけだと思っています。2チャンネルでちゃんと奥行きと広がりが録れないと、5.1でも録れない。5.1チャンネルでも高さ方向って結構出るんですよ。僕たちは5.1チャンネルで録っている時から、響きは天井ということは分かっていましたから、すぐにイマーシブにも対応できた。
サイデラマスタリングのイマーシブ再生環境 フロント上方
サイデラマスタリングのイマーシブ再生環境 リア側上方。右端上方のスピーカーはスタジオ内で録音する際の残響付加用全方位スピーカー
サイデラマスタリングのイマーシブ再生環境 フロント
ステレオでもサラウンドでも基本は「空間を録る」こと
高橋:オノ セイゲンさんの作品ですごく好きなのが「フォーティー・デイズ・アンド・フォーティー・ナイツ」というアルバムです。91年のアルバムなのですが、2チャンネルなのに3次元的というか、91年の時点ですでにこういう音作りをされていたという驚くべきアルバムで、ものすごく多くの情報が入っています。この音源を今の技術でアップミックスすると、イマーシブな立体音源にきれいに音がマッピングされるんですよ。
アーティスト名:オノ セイゲン
アルバム・タイトル:フォーティー・デイズ・アンド・フォーティー・ナイツ
オノ:よく分析してくれてありがとうございます。このアルバムではそれぞれの楽器ごとにワンポイントステレオで空間ごと録っているレイヤーの集まりなんです。僕はよく「仕事がはやい」って言われるんですけど、実はあまりマイクの本数を使わないんです。一応マイクをいろいろ立ててメーターも振らせているんだけど、実はミックスバスから外してある(笑)。楽器にあとからリバーブをつけて空間を作るのではなく、録音する段階からその楽器をミックスのどこに配置するか決めて、遠くに置きたい楽器はそのまま遠くに置いて録音します。あとから変えられませんけど、音がまとめるのも早いし位相の問題も出ないから。楽器を空間ごとステレオで録ればすごく早く仕事をしているように見えるんです。
いずれにしても音の広がりや包まれ感、つまり奥行きや高さがある空間、空間というのは初期反射の集まりです。モノラルでも奥行きが出ますね。ステレオ録音ではさらに奥行きや高さが出せます。自宅などの小さいスタジオで録って、奥行きがないからリバーブを後からかけたりするけど、それでは全然違うことが起こってしまいます。
高橋:なるほど、ワンポイントでのステレオマイキングがキーポイントなのですね。そう言われてみると僕自身が好きな作品はワンポイントステレオ録音と称する作品が多いかもしれません。シンプルに空間そのものを忠実にステレオで録ることが出来れば、奥行きや高さなどの3次元的な要素も取り込めるということですね。
オノ:そうです。たとえば「フォレスト・アンド・ビーチ」というSACDアルバムのMulti-chレイヤーでは、森の音とビーチの音ですが、5.0サラウンドで自分の耳より低い所にある5本のスピーカーから鳴っている音なのに、上から鳥の声が聴こえるってみんな言います。みんなびっくりします。脳が空間をどう認識するかを知っていると水平の5.0でもほとんどの人にまるでイマーシブかと勘違いする音を作ることができます。
アーティスト名:Seigen Ono
アルバム・タイトル:Forest and Beach
高橋:5.1サラウンドが出始めの頃の音楽作品を聴くと、立体音響をやや飛び道具として使っているな、というものもあって、ステレオからサラウンドにいかなかったオーディオファンの方には、そのようなところが合わなかったのだろうと思いますね。オノさんの作品はスレテオから立体音響へとチャンネル数は増えていますが、根本は変わらないのだろうと思います。
オノ:「ステレオで空間を録る」というアプローチでやってこなかった場合は、5.1チャンネルで空間を作るのも難しいでしょうし、イマーシブではさらにハードルが高いかもしれないですね。僕はイマーシブになってキャンバスが広がってよかったなという印象で、空間そのものをイマーシブオーディオで録ることが出来ればミュージシャンがいい演奏をしてくれる。それで、いいマイキングができればミックスはいらなくなってくると思っています。
リマスタリングは「名画の修復」のアプローチ
高橋:イマーシブから離れますが、僕がオノ セイゲンさんの作品で素晴らしいと思ったのが、2004年にヴァーヴ創立60周年を記念してレーベルを代表する10枚の名盤をDSDリマスターしたものです。非常に有名な盤でオスカー・ピーターソンの「プリーズ・リクエスト」という作品がありますが、私は楽器の歪みやノイズも含めて音楽だと思っていて、今までアルバムで聞こえなかった擦れる音やきしみなどの空気感までがスポイルされずに聴こえてくる、素晴らしいマスタリングで、これまでになかった一番素晴らしい「プリーズ・リクエスト」になっていると思いました。その話も聞かせていただいてよろしいでしょうか。
アーティスト名:オスカー・ピーターソン・トリオ
アルバム・タイトル:プリーズ・リクエスト
オノ:このシリーズは日本向けにやらせてくれた企画で、本当はマスターテープをここに持って来たかったんだけど、ヴァーヴのオリジナルマスターテープはニューヨークのスタジオからの持ち出しが禁止ということで、向こうにSONY SONOMA (DSD Digital Audio Workstation)を用意してもらって、ケーブルだけ持ってプロデューサーの斉藤さんとニューヨークに行きました。DSDにトランスファーしたものをここに持ち帰ってきてリマスタリングしたんです。
高橋:非常にいい音に仕上がっていると思うのですがポイントはなんですか。
オノ:マスターテープを一番いい状態で再生することからです。リマスタ−の仕事ではアナログテープをリファレンス信号どおりにアーカイブして、あるいはすでに録音課でアーカイブされたデジタルデータからそれをEQしていくワークフローが多いんです。
僕はアナログテープの場合にこだわるのは、レコーダーのアライメンントと言ってこれが一番重要なんですが、もちろん1回目にマスターテープのリファレンス信号通りにストレートにアーカイブします。そこで何か違う?と感じた時はテープレコーダーのローとハイだけで自分の耳を信用して針1本(約0.1−0.2db)とかアジマスも耳で曲を聴きながら調整します。マスターテープを痛めてはいけませんから2回目には別セッティング決めないと行けません。リファレンス信号そのまま信用してアーカイブするわけじゃないんです。
例えば「エラ・アンド・ルイ」は曲によってロサンゼルス録音だったりニューヨーク録音だったりです。その時点でスタジオが違うし、レコーダーも当然違うわけ。そうするとテープの頭に入っている1kHz、10kHz、100Hzのリファレンストーンは、どちらのスタジオで録ったのか分からない。明らかに違っているのもありました。ウエス・モンゴメリーの「カリフォルニア・ドリーミング」はB面右チャンネルだったかな?全然違ってましたね。オケのホルンの内声ハーモニーとか今までのバージョンでは聞こえづらかった。
リファレンストーンが入ってないテープもよくある。あとからMRL(Magnetic Reference Laboratory)に合わせたキャリブレーショントーンつけたな?みたいなのとか。まず最初に再生ヘッドのアジマスとEQとレベルをMRLテープで合わせます。そこは基本スタジオでやってありますが、ズレてることも少なくない。厳密にはレコーダー一台ずつ違います。
高橋:一番良い音と判断する感性も素晴らしいですが、現場での豊富な経験値が無ければできないことですね。活き活きとした再生音が得られると言いますか、明らかに良い音に仕上がっている理由が分かりました。
オノ:実際、僕らも80年代アナログレコーダーの調整は神経質にやりました。やっぱりいい音に録音するために録音エンジニアのこだわりは、テレコを基準より+3db、+6dbと録音レベルやバイアスを10KHzでオーバー+1.5dBとか、これはどのテープをどの録音レベルで使用するかによるんですが、現場で決めますから。ロックならAMPEX 456で、ジャズはAGFA 468とか。アンプのドライブレベルとテープの飽和での歪みの両方を経験からね。アナログテープレコーダーはDSDじゃないので、ミキシング・コンソールのアウトを録音してもテープでなまりますから、録音アンプでHiを+0.5dBあげたり、僕はGML-8200イコライザーをコンソールのアウトに入れたり。プレイバックした時に狙った音色で再生されないといけませんから。
高橋さん、アナログアンプ設計でも、オペアンプやどんなレベルで次に送ると一番いい音になるとか、ノウハウがありますよね?
高橋: もちろんありますよ。AVレシーバーの設計においてでデジタル→DAC→ボリウム/プリアンプ→パワーアンプの各ステージでレベルダイアグラムはある程度しっかり決まっていて、既に最適化されたものがあるのですが、その中でもボリウムを可変ゲイン型にして最適なゲイン配分で設計したり、各ステージでの送り出し受けのインピーダンスを調整したりして、特性的にも音質的にも最良なポイントに落とし込みます。でも一番はやはり、どれだけシンプルな回路でノイズ耐性や低歪みのシステムを組めるかということがポイントではないかと思います。
オノ:デジタルだと32bit, 64bit, 80bitも大切ですが、最後はアナログのアンプにどのレベルで鳴らすかって一番大事ですからね。エレキギターだとイフェクターやつなぐ順番とかも、話がすっかり脱線しそうですが(笑) 思えばAVC-A110ってアナログでこれはすごいわ。
アーティスト名:ウェス・モンゴメリー
アルバム・タイトル:夢のカリフォルニア
アーティスト名:エラ・フィッツジェラルド,ルイ・アームストロング
アルバム・タイトル:エラ・アンド・ルイ
オノ:あと、こういう名盤のリマスターで僕が気をつけているのは、音をデフォルメしたくないということです。ミュージシャンが録音したときの音はこうだったはず、というサウンドを蘇らせたいんです。たとえばリマスターの名匠とされるバーニー・グランドマンやボブ・ラドウィックみたいな場合は名盤でも現代的というか自分なりの音にしちゃうんです。さすが伝説の巨匠たちですから。僕なんかが、そこまでやったら怒られちゃいます(笑)
高橋:元々の音楽に忠実にするという意味で、名画の修復にちょっと似ていますね。素敵なアプローチだと思います。お陰で録音当時の演奏者、制作者のスピリットを失うことが無く我々も名演を楽しむことが出来るわけですから感謝しかありませんね。
AVC-X8500H、AVC-A110はイマーシブ制作のアンプに最適
●3回にわたってオノ セイゲンさんと高橋さんの対談をお送りしてきましたが、最後の質問です。今後イマーシブオーディオの音源は増えてくるのでしょうか。
オノ:Dolby AtmosやDTS:X、Auro-3Dなどのイマーシブオーディオのソフトはどんどん増えてくるでしょうね。Blu-rayのなどのパッケージソフトの音声もイマーシブが主流になりましたし、Netflix、U-NEXT、WOWOWなどのストリーミングコンテンツも今後イマーシブオーディオになってくる。また近々携帯が5Gになりますからスマホにヘッドホンをつないだら聴こえる音がイマーシブ、という時代も近いと思います。
高橋:イマーシブオーディオ、それぞれのフォーマットについての特徴に関してはどうお考えでしょうか。
オノ:Dolby Atmosは映画にいいと思います。単純に録音/再生だけで言えばAuro-3Dのスピーカー配置が一番きれいに出ますね。
今、サイデラ・マスタリングには水平面に5チャンネルがあって、サブウーハーを1基、または2基にして、5.1や5.2のスピーカーセッティングにしています。上方にもスピーカーが4チャンネルあるので、Auro-3D、Dolby Atmosなどに対応できるようになっています。
高橋:今後サウンドクリエーターとしては今まで以上にイマーシブオーディオへの対応が求められると思いますがAVC-A110はクリエイターのみなさんを助ける道具になり得るでしょうか。
オノ: なります。AVC-A110はイマージブオーディオの作曲家やクリエーターの制作環境として一番お勧めしたいAVアンプです。イマーシブオーディオの制作って大きなスタジオじゃないとできないと思っている人が多いんですけど、そんなことないんです。ここサイデラ・マスタリングもそれほど大きなスタジオではありませんが、13.1ch/15.2chが常設です。
イマーシブを想定した作曲家、クリエーターがいないことにはフォーマットの普及もありません。13.1chまでなくともクリエーターが自宅でスケッチやプリプロをするには、AVC-A110やAVC-X8500Hは、例えば自宅の作曲スペースに5.1.2のシステムをすぐに組めます。スピーカーも小さくていいのでインパルス応答特性のいいスピーカーを組み合わせれば、茶室的な小さい空間でもイマーシブオーディオの制作環境は作れます。またデコードに関して全部のフォーマットを持っているのでHDMI経由でUHD Blu-rayでもストリーミングでも、簡単に何でも再生することができます。AVC-A110やAVC-X8500Hはイマーシブサウンドを創るクリエーターのツールになります。
4月から日本でもソニーの新しい音楽体験「360 Reality Audio」が始まりました。リスナーはヘッドホンで3D立体音響で音楽が楽しめるものです。リスナーはヘッドホンでいいのですが、クリエーター、作曲にはスピーカーでイマーシブの環境が必要なのです。現時点アジアでは、ソニーミュージック乃木坂スタジオ、ソニーPCLスタジオに続いて3番目にサイデラ・マスタリングでも「360 Reality Audio」用のリミックスからオーサリングまで受託できます。そのためには、5.1.4.3、水平に5本、ハイトチャンネル4本、前方フロアに3本、最低13.1chのスピーカーが必要です。3月はサイデラ・レコードのSACD Multi-chフォーマットのアルバムや新作を「360 Reality Audio」用に220曲もリミックスからオーサリングまで仕上げたところです。
サイデラ・マスタリングは、今ハイトチャンネルはAVC-X8500Hなのですが、2台目のAVC-A110の発注を考えているところです(笑)仕事とはいえ、音色がいいとはどうしても欲しくなってしまうですね(笑)
高橋:えっ本当ですか!?是非ご検討を宜しくお願い致します。本日はお忙しいところをたくさんの貴重なお話を有難うございました。
●オノ セイゲンさん、高橋さん、今回は長時間にわたるインタビュー、ありがとうございました。
Profile
SEIGEN ONO(オノ セイゲン)
レコーディングエンジニアとして「坂本龍一/戦場のメリークリスマス」、ジョン・ゾーン、アート・リンゼイ、デイヴィッド・シルヴィアン、マンハッタン・トランスファー、オスカー・ピーターソン、キース・ジャレット、マイルス・デイビス、キング・クリムゾン、渡辺貞夫、加藤和彦、今井美樹(2015「Premium Ivory-The Best Songs Of All Time-」のマスタリング)など多数のアーティストのプロジェクトに参加。1996年「サイデラ・マスタリング」を開設。CD、SACDなどのマスタリング、ミキシング、ライブ、DSDレコーディグ、立体3Dサラウンドについても各オーディオ規格の当初から取組み、DSDライブストリーミング、音響空間のコンサルティングなども手がける。またアーティストとしては1987年に日本人として初めてヴァージンUKと契約。同年、コム デ ギャルソン 川久保玲から「洋服が奇麗に見えるような音楽を」という依頼によりショーのためにオリジナル楽曲を作曲、制作。
(編集部I)