600NEシリーズで007の最新作「ノー・タイム・トゥ・ダイ」のサウンドトラック盤を聴く
現代の映画音楽の巨匠、ハンス・ジマーが手掛けた007の話題の最新作「ノー・タイム・トゥ・ダイ」のサウンドトラックをデノンHi-Fiオーディオのエントリー機、600NEシリーズで聴いてみました。
今作で見納め? ダニエル・クレイグが演じる男っぽい007
知らない人はいないであろう「007」シリーズですが、念のためご説明しておくと、英国諜報部に所属するエージェント、ジェームズ・ボンドの活躍を描くスパイ映画シリーズです。ジェームス・ボンド役は初代がショーン・コネリー、そしてロジャー・ムーア、ピアーズ・ブロスナンなど歴代名優が演じており、2006年から最新作までの5作品はダニエル・クレイグが演じています。ダニエル・クレイグはそれまでのボンド役とはキャラクターが違って、それまでの軟派な伊達男ではなく男っぽい硬派なボンドです。これがとてもかっこいいのですが、残念なことに今作でダニエル・クレイグはボンド役を引退するのだとか。
007 No time to Die オフィシャルウェブサイト
https://www.007.com/no-time-to-die-jp/
今回のエントリーはサウンドトラックのご紹介ですが、少しだけ映画本編「007 No time to Die」に触れておきます。
前作でスパイ稼業を引退してジャマイカでのんびりと暮らしていたボンドが、旧友の助けに応じて誘拐された科学者を救出するという任務に就いたところ、それは想像を超える破滅的な危機から地球を救うほどの困難なミッションだった…と。これ以上はネタばれになってしまいますので書けませんが、この映画をご覧になる方はあらかじめ前作「007 スペクター」を見ておいた方がいいと思います。またボンドガールは前作から引き続きレア・セドゥ、そして悪役は「ボヘミアン・ラプソディ」のフレディ・マーキュリー役でアカデミー主演男優賞を受賞したラミ・マレック。スリリングなアクションシーンやボンドが駆け回る世界各地の美しい風景が堪能できますので、ぜひ映画館で観ることをお勧めします。
巨匠、ハンス・ジマーがしかけるめくるめく音世界
さて、ではいよいよ「007 No time to Die」のサウンドトラックに話を進めましょう。
007/ノー・タイム・トゥ・ダイ
ハンス・ジマー
https://va.lnk.to/NoTimeToDie
「007 No time to Die」の音楽を担当しているのは、これまでに計11回のアカデミー賞にノミネートされている映画音楽の巨匠ハンス・ジマー。ハンス・ジマーは「シャーロック・ホームズ (2009)」、「インセプション(2010)」、「パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉(2011)」、「ダークナイト ライジング (2012)」、「ダンケルク (2017)」、「ブレードランナー 2049 (2017)」、「ライオン・キング」(2019)」など数多くのハリウットの有名作品を手掛けています。またポップス好きにはピンとくるかもしれませんが、ハンス・ジマーは1979年にヒットした「ラジオ・スターの悲劇」で有名なイギリスのニューウェイブバンド、バグルスでキーボードを弾いていたそうです。イギリスのニューウェーブ出身の映画音楽作家は珍しいのではないでしょうか。
さっそくプリメインアンプ「PMA-600NE」とCDプレーヤー「DCD-600NE」の600NEシリーズで聴いてみましょう。
サウンドトラックに収録されているのは21曲、うち20曲はインストゥルメンタルです。1曲目の「GUN BARREL」。GUN BARRELとは銃砲身で、007のオープニングでピストルの砲身から観たアングルで007が歩いてくるシーンに流れる、ジャズのビッグバンドのゴージャスな演奏で奏でられるシリーズ共通のテーマ曲。もう007がこの部屋にやってくるとしか思えません。やがて弦楽四重奏風のストリグスの音が聞こえて2曲目の美しいアリア風の「MATERA」へ。そこからは急に激しいドラムビートが聞こえてきたり、現代音楽風の不協和音が長時間続いたりと、映画と同じように激しい展開で、めくるめく音楽絵巻が展開されます。映画館で映画を観ながらだとわかりにくいのですが、どの曲もとても緻密なアレンジがなされています。
たとえば「Cuba Chase」という曲はキューバのアクションシーンで使われている音楽ですが、テンポの速いスリリングな曲の中に、見事にキューバのサルサが挿入されていて、聴いているだけで映画のシーンが思い出されます。CDのクレジットによれば、このサルサのパートでトランペットを吹いているのは、アルトゥーロ・サンドヴァル。サルサの世界ではぶっちぎりトップのトランペッターです。またギターのクレジットには元スミスのジョニー・マーの名前があり、このあたりはさすがイギリスのニューウェーブシーン出身。このようにゲストミュージシャンもゴージャスで、映像や俳優に負けず劣らず、音楽に関しても最高のメンバーを使っています。さすがです! ストリングスの繊細なニュアンスや、オーケストラがフォルテッシモで鳴り響く壮大なサウンドも、600NEシリーズで聴くと映画館よりはるかに細部まで味わうことができます。
映画館で映画を観ながらリアルタイムで聴く音楽も素敵ですが、映画本編は台詞や効果音も大きく入りますし、映像でも目が離せないようなシーンが次々に展開するので、映画館で音楽に集中して聴くのは難しいと思います。そこでお勧めしたいのが映画を見終わった後でその記憶を反芻しながらサウンドトラック盤を味わうこと。私の場合、自分の好きな音量で聴けるというのがサントラ盤を自宅で聴く最大のメリットです。
今回はDCD-600NE、PMA-600NE、そしてPolk Audioから今年発売されたSignature Eliteシリーズの「ES15」というブックシェルフスピーカーを組みあわせて聴きましたが、サウンドトラックのように音量差があって躍動感のあるサウンドにはピッタリでした。普通のCDであれば、ロックバンドならロックサウンド、ジャズならジャズサウンド、オーケストラならオーケストラの音が収録されていますが、映画音楽、特に「007 No time to Die」のようなエンターテイメント系のハリウッド映画の場合は、弦楽四重奏のようなストリングスアンサンブルもあれば、壮大なオーケストラサウンドもあり、ポップスもあれば、サルサもあり、さらに打楽器がメインの迫力のある曲もあります。非常にワイドレンジで音楽性も多岐にわたるソースとなるわけですが、600NEシリーズとPolk AudioのES15での組み合わせは、様々なジャンルの音楽を、非常にピュアに、しかもエネルギッシュで快活に再生してくれました。とても良いコンビネーションだったと思います。
POLK「Polk Signature Elite ES15」の組み合わせで試聴
POLK「Polk Signature Elite ES15」
Polk Signature Elite ES15の背面にはポートを通ってキャビネットから出る空気の流れをスムーズにする特許技術のパワーポートを搭載
ビリー・アイリッシュの主題歌「No time to Die」は必聴の名作
最後に主題歌の話をさせてください。「007」といえばいつも主題歌が話題になります。逆に言えば主題歌がいつも毎回話題になるのは「007」シリーズくらいでしょう。実際007のテーマソングは名曲の宝庫であり、ポール・マッカートニー&ウィングスの「死ぬのは奴らだ」、シャーリー・バッシーの「ゴールドフィンガー」、シーナ・イーストンの「ユア・アイズ・オンリー」、デュラン・デュランの「美しき獲物たち」、マドンナの「ダイ・アナザー・デイ」、サム・スミスの「スペクター」など、時代を代表するアーティストたちが素晴らしい曲を提供しています。
そして今作は007主題歌史上最年少のビリー・アイリッシュが担当。タイトルは映画のタイトルと同じく「No time to Die」。これが実に素晴らしい!
シンプルで暗めのピアノのイントロからビリー・アイリッシュのつぶやきのようなボーカルがセンターから浮き出るように再生されます。定位が非常にシャープで、まるで言葉そのものがステレオ空間の中央に浮かび上がってくるようです。そして後半からはハンス・ジマーのオーケストレーションが重なってきて壮大な音世界が言葉の背景に広がっていきます。サビでは映画のタイトルである「No time to Die」が歌詞として何度もリフレインされますがが、ここの部分は映画の中のボンドの悲痛さを表現しながら、同時にビリー・アイリッシュ自身がリアルに私たちに語りかけている言葉にも感じられますし、また私たちの思いを代弁してくれているようにも思えました。
ビリー・アイリッシュ
No time to Die
映画のストーリーはこれから観る方のために書けませんが、稀代のエンターテイメント映画である007が、偶然とはいえ(その偶然には驚かされますが)パンデミックの中で人は何を守るべきなのか、何のために生きるのかを、私たちひとり一人に問いかけるようなテーマを持っていることに驚きました。そして同じテーマがビリー・アイリッシュの主題歌にも、よりパーソナルな形で込められていると感じました。
というわけで、まずはロードショーで「007ノー・タイム・トゥ・ダイ」を観て、それから600NEシリーズなどのHi-Fiオーディオで「007ノー・タイム・トゥ・ダイ」のサウンドトラックを聴く、というコースをぜひみなさんにお薦めしたいと思います。
(編集部I)