銘機探訪「DP‐S1 &DA-S1」 PART1
オーディオファンなら見逃せない、デノンの伝説のモデルをご紹介する「銘機探訪」がスタート! 記念すべき第1回は、伝説的なCDトランスポート DP-S1 とD/Aコンバーター DA-S1 が登場。
デノンの歴史的な銘機をご紹介するこのコーナー第1回は、
CDプレーヤーの駆動部分とDAC部分をセパレートしたCDトランスポート DP-S1 とD/Aコンバーター DA-S1 をご紹介します。
デノンのS1シリーズとは1990年代前半に、コストという制約を払拭し、
「設計者がその時点で具現化できる最高のモノをつくる」
というコンセプトで完成させた製品群です。(詳しくはデノンミュージアム S1シリーズをご覧ください)
最高のモノをつくるには、コストも時間もとてつもなくかかります。
当時、こういったことに会社として取り組めたということは、手前味噌ですが、すごいこと。
デノンがオーディオブランドとして確立できていたということだと思います。
ちなみにS1のSはセンシティブのS。
日本語としてのセンシティブには「感覚的な」とか、「感情がこもった」などのいい意味がありますが、
英語では「神経質な」という意味があるため、今では堂々とは謳っていません。
CDトランスポート DP-S1
とD/Aコンバーター DA-S1 はいずれも1993年発売。
DP-S1はCD盤を回転させてデジタル信号を読み取るユニット、DA-S1はデジタル信号をアナログ信号に変換するユニット。
この2つのユニットを組み合わせることで、CDプレーヤーとしての機能を実現しています。
2つのユニットに分けられているのは、それぞれの機能を徹底的に追求するため。
このDP-S1、DA-S1で結実した技術がその後のデノンのCDプレーヤー技術の根幹になっている部分も多く、
マイルストーン的な銘機といえます。
ではまず DP-S1 から。
当時の新製品ニュースはこんな感じでした。発売当時の価格は88万円。
DP-S1でデノンが目指したのは「どこまで信頼性の高いメカを実現できるか」ということでした。
いかにCDを正確に回転させるか。そして正確に信号を取り出すか。しかも「正確な信号」と「いい音」は、実はイコールではありません。
「データを正確に拾い上げる」ことの先にある音楽的な再生、
具体的には「サウンドステージをきちんと再現すること」を徹底的に追求したのがDP-S1でした。
データをできるだけ正確に拾い上げるためには、いかに外乱(振動、その他)を遮断するか、いかにストレスなく読み取りを可能にするかが重要です。
そこでDP-S1では砂型アルミ鋳物を使った4重構造のメカニズムを構成し、
さらに大型のスタビライザー(下写真中央の金色の円盤状のもの)を採用しました。
CDを前から入れる通常のフロントローディングではなく、上から入れるトップローディングとし、
そしてセットしたCDの上からディスクを覆ってしまうサイズの大口径のスタビライザーを被せます。ディスクの印刷面に密着させるわけです。
スタビライザーは重量があるため、ディスクと一体化した回転系の負荷は非常に大きくなります。
そのため、それを正確に回転させるパワーと精度を持ったモーターを搭載する必要がありました。
これも、最高のモノをつくるという思いからです。
そして次はD/Aコンバーター DA-S1 です。
こちらはトランスポートが読み取ったデジタル信号をアナログ信号に変換するD/Aコンバーターです。
DA-S1の技術的なポイントは、「ALPHAプロセッサー」を初めて開発して搭載したこと。
ALPHAプロセッサーとは、4ビットを使ってデジタルデータを補完(20ビットのデータ)することで、
音楽をデジタル化した際に生じる「量子化歪み」を低減して音を滑らかにし、
デジタル化で失ってしまった音の繊細な息づかいを取り戻すもの。
ALPHAプロセッサーはDA-S1で搭載された後、今も進化を重ねています。
現在のデノンのCDプレーヤーのフラッグシップモデルDCD-SX1にも「Advanced AL32 Processing (アドバンスドAL32プロセッシング)」
として搭載され、今でもデノンのCD技術の要となっています。
ALPHAプロセッサーは世界で初めてデジタル録音を行ったデノンが、
それまで営々と積み上げてきた技術を裏付けていくことで確立できたアナログ波形補完技術です。
では、なぜデノンがこうしたアナログ波形補完技術を追求し続けているのでしょうか。
その背景には、デノンが当時、レコード/ハード会社である日本コロムビアのオーディオブランドであった、ということが大きく貢献しています。
同じ会社の中で録音活動を行い、レコードを作り、同時にオーディオ機器を作っていたわけですから、
デジタルオーディオのメリットはもちろん、デメリットの部分も、直接身体で感じてきたわけです。
レコード会社として「音楽のエネルギー、エモーションを十分に感じてもらえる音楽コンテンツを世に送り出したい」という信念と、
オーディオ機器メーカーとして「音楽のエネルギー、エモーションを十分に楽しんでもらうためのオーディオ機器を作り上げたい」という信念。
このふたつの熱意がひとつになったからこそ「ALPHAプロセッサー」が実現できたのです。
さらにDP-S1とDA-S1を組み合わせて使用する時には、ST GEN LOCKという同期運転が可能です。
DA-S1内部のDAC用マスタークロック、しかも原発周波数の16.9344MHzのままでDP-S1に同期をかけるという
革新的なコントロールを実現しました。
これは、現在デノンがデジタルオーディオで唱えている「DAC Master Clock Design」そのものです。
DP-S1で培われた筐体設計をはじめとする、信号を正確に読み取るための様々な技術やノウハウ、
DA-S1 に搭載されたデジタルで失われた音を補完する「ALPHAプロセッサー」、
マスタークロックでデジタル回路を制御し正確な同期運転を可能にする「ST GEN LOCK」。
これらの技術は、その後のデノンのCDプレーヤーの根幹をなす技術となりました。
その最発展型が「Advanced S.V.H.Mechanism」、「Advanced AL32 Processing」、「HD Master Clock Design」として、
現在のフラッグシップモデルであるDCD-SX1 にも搭載されるなど、まったくブレることなく進化し続けています。
DP-S1とDA-S1は、まさに現在のデノンのCDプレ−ヤーの「源流」とも言うべき、記念碑的モデルだと言えるでしょう。
(パート2へ続きます)
DCD-SX1の技術情報はこちら
(Denon Official Blog 編集部 I)