銘機探訪 DP-3000 PART1
歴代のデノン製品から、高い支持を受けたモデルを紹介する銘機探訪。今回は大ヒットを記録し一世を風靡したダイレクト・ドライブ・サーボターンテーブル「DP-3000」(1972年発売)をご紹介します。なぜ今なお、DP-3000は銘機として語り継がれているのでしょうか。アナログレコードの人気が再燃しつつある今、あらためて振り返ってみたいと思います。
歴代のデノン製品から、高い支持を受けたモデルを紹介する銘機探訪。
今回は1972年6月に発表された、ダイレクト・ドライブ・サーボターンテーブル DP-3000をご紹介します。
↑DP-3000カタログより
●「納品まで数ヶ月待ち」というほどの人気を博したDP-3000
DP-3000はダイレクト・ドライブ方式のターンテーブルです。発売当時の価格は43,000円。
1972年といえば沖縄返還の年ですが、当時の物価で考えると「はがき=10円」「大卒初任給=約5万円」でしたので、
今の物価に換算して考えると、4〜5倍ぐらいでしょうか、決して安い製品ではありませんでしたが、
納品まで何ヶ月もお待たせしたという伝説があるほどの大ヒットを記録しました。
DP-3000の正式な品名は「ダイレクト・ドライブ・サーボターンテーブル」といいます。
ダイレクト・ドライブ方式とは当時主流であったベルト・ドライブ方式とは異なり、モーターで直接ターンテーブルを回転する方式です。
磁気パルスを使って回転を制御するダイレクト・ドライブ方式は、それまでは業務機器である放送局用ダイレクトドライブプレーヤーDN-302Fや、
DP-3000より先行して発売されていた上位機種であるDP- 5000にしか搭載されていなかった非常に優れた回転制御方式でした。
この制御方式を手が届く範囲の価格で搭載したことにより、DP-3000は高い人気を博しました。
↑当時のカタログより
●各社がダイレクト・ドライブ方式のターンテーブルを競って発売
DP-3000が発売された1972年頃のターンテーブルの駆動方式は、
アイドラー・ドライブ(リム・ドライブ)方式やベルト・ドライブ方式が主流でした。
アイドラー・ドライブはゴム製の円盤であるアイドラーを介してモーターの回転をターンテーブルへ伝えて駆動する方式です。
この方式は構造がシンプルなので、主に低価格帯のターンテーブルで使用されていましたが、
最大の難点は再生時に「ゴロ」と呼ばれるモーターの振動音をターンテーブルに伝えてしまうことでした。
ベルト・ドライブはモーターの回転をゴムのベルトを介してターンテーブルへと伝えて駆動する方式です。
こちらはモーターとターンテーブルの間に弾性体であるゴムが介在するため、モーターの振動音を吸収することができるというメリットがあります。
しかし、ゴムが伸び縮みするために正確な回転制御をし難く、また経年変化によりゴムが劣化するというデメリットがありました。
これらの2つの方式における欠点は、重いターンテーブルを回すことで慣性モーメントを大きくし、
それによって回転の平滑性を得るという方法で補われていました。
ダイレクト・ドライブ方式はモーターの軸が直接ターンテーブルを回転させるわけですから、
モーターを正確に制御することができれば、非常に高い回転精度が実現できます。
またアイドラーやベルトなどの介在物がないため、劣化した部品の交換という手間もありません。
ただし、レコードを回すスピード(1分間に33回転、45回転)は、非常に低速なため、
モーターの回転精度を正確に制御するには、かなり高度な技術を必要としました。
当時オーディオ各社は様々な方法でこの難題を解決し、次々とダイレクト・ドライブ方式のターンテーブルを発表していきました。
●DP-3000がヒットした理由は、FM放送局で使用された高音質と信頼性
1971年頃からオーディオメーカー各社がダイレクト・ドライブ方式のターンテーブルを発売していく中、大ヒットを記録したのがデノンのDP-3000です。
では、なぜDP-3000は大ヒットとなったのでしょうか。
その理由の一つには、当時多くの放送局でデノン(当時デンオン)のダイレクト・ドライブ方式のターンテーブルを搭載した
業務用レコードプレーヤー「DN-302F(1970年発売)」が放送の送り出し用に使用されており、
DP-3000はその基本技術をほぼそのまま搭載していたことが挙げられます。
放送局の機器は「高性能」と「信頼性」が最大の条件です。
放送局で採用されていることは、音が良い、壊れないという条件を高い基準でクリアしていることの証しとなります。
当時はFM番組のエアチェックが流行っていたこともあり、多くの音楽ファンにとって
「FM局の送り出しで使われているレコードプレーヤーをつくっているメーカー」という事実は非常に高い価値がありました。
●DP-3000はなぜ「ACサーボ」を採用したのか
ターンテーブルを回転させるモーターには、ACサーボとDCサーボの2つの種類があります。
DP-3000では、ターンテーブルを回転させるモーターを交流電流で駆動させる「ACサーボモーター」を採用していました。
ACサーボはシンプルな構造で電気的な制御がし易く、回転が滑らかです。
ただし、トルク(回す力)があまり出ないので、重いターンテーブルを回すには不向きです。
それに対してライバルメーカーの多くは、モーターを直流電流で駆動させる「DCサーボ」を採用していました。
DCサーボはACサーボよりもトルクが得られます。
ただし、動きがぎこちなくなる「コギング」という現象が出やすいというデメリットがあり、
それを解消するために重量級のターンテーブルを回して慣性モーメントでコギングを吸収していました。
DP-3000はなぜ「ACサーボ」をあえて採用したのでしょうか。
それはデノンのレコードプレーヤーが放送機器として使われていたことに由来しています。
放送局では放送中に次々とレコードを再生しますが、これらは「アタマ出し」という放送局ならではの方法で再生されていました。
それは再生したい曲の開始位置に予め針を落としておき、再生スイッチを押したらすぐに曲が流れるという方式です。
そのためには再生ボタンを押したらすぐに、正確な回転数にまで上がらなくてはなりません。
この俊敏な立ち上がりを実現するためには重いターンテーブルを回すDCサーボよりも、軽いターンテーブルを俊敏に回し、
短時間で規定の回転数にまで正確に立ち上げるACサーボのほうが向いていたのです。
また磁気パルスを使用した独自の回転制御方式も、極めて高い回転精度を実現した革新的な技術でした。
DP-3000にはターンテーブルの内側に1000発の磁気パルスが記録されており、
それをヘッドで読み取って、回転スピードを正確に制御しました。
この磁気パルス方式は一般の測定機器では測定できないほどの回転精度を実現しました。
↑DP-3000のターンテーブルの裏側。内周にはスピード検出のための磁気コーティングが施されている
↑スピード検出用の磁気ヘッド。このヘッドが磁気パルスを読み取って回転を制御する
正確な回転を制御するためのアプローチが異なりますが、ACサーボとDCサーボ共に、
デメリットを克服すべく開発がなされ、高性能なダイレクトドライブターンテーブルが世に送り出されました。
ですから「ACサーボの雄がDP-3000だった。」という表現が、当時の状況を正しく表しているのかもしれません。
●その後のデノンのターンテーブルの原型となったDP-3000
DP-3000は「UFO型」とも「お釜型」ともいわれる独自の形状が斬新で、グッドデザイン賞を受賞するなど、デザイン面でも高い評価を得ました。
技術面だけでなくデザイン面でもデノンのターンテーブルのイメージを確立したモデルと言えるでしょう。
その後に登場するDP-S1(DP-S1のブログ記事はこちら)のデザインにまで、その影響は及んでいます。
アナログレコードブームとともに人気が高まりつつあるレコードプレーヤーですが、
今なお高い評価を得ているデノンのレコードプレーヤーの、その源流にあるのはDP-3000と言っていいでしょう。
さて次回の銘機探訪では、当時DP-3000を購入し、それが一つのきっかけとなってデノンに入社した社員Yが語る「私のDP-3000」をお送りします。
製品の詳細: DENON Museum DP-3000
(Denon Official Blog 編集部I)