AVR-X1300W、AVR-X2300W開発者インタビュー
AVサラウンドレシーバーの新たなエントリーモデルAVR-X1300WとミドルクラスのAVR-X2300Wが発売となりました。今回はそれぞれのモデルの開発者にスペックやカタログでは伝えきれない魅力について聞きました。
デノンのAVアンプの新たなエントリーモデルAVR-X1300WとミドルクラスのAVR-X2300Wがついに発売となりました。
Dolby AtmosやDTS:Xなど最新の機能がギッシリ搭載されたAVR-X1300W、AVR-X2300Wですが、昨年のモデルとはどう違うのでしょうか。
今回はそれぞれのモデルの開発者にスペックの数値やカタログ表現などでは伝えきれない魅力についてじっくりと聞きました。
【今回のナビゲーター】
グローバル プロダクト デベロップメント プロダクト エンジニアリング
北脇 孝視(左)
島村 信雅(右)
7.2ch AVサラウンドレシーバー
AVR-X1300W
希望小売価格: 57,500円(税抜価格)
7.2ch AVサラウンドレシーバー
AVR-X2300W
希望小売価格: 85,000円(税抜価格)
■北脇さんがAVR-X2300Wのオーディオ部分の開発を、島村さんがAVR-X1300Wのオーディオ部分の開発をなさったということで、今日はお話をうかがいます。よろしくお願いします。
さっそくですが今回のモデルはどんな点が特長なのでしょうか。
北脇:AVR-X1300W、AVR-X2300Wは、昨年発売されたモデルAVR-X1200W、AVR-X2200Wの後継モデルとなります。
デノンのAVアンプは毎年モデルチェンジされていますが、昨年は大きなモデルチェンジがありました。
島村:大きなところでは、音声処理を行うキーデバイスであるDSPが変更になりました。
DolbyAtmosやDTS:Xなどのサラウンドサウンド処理のように負荷の重い処理を行うため約4倍の処理能力を持つ32bitクアッドコアDSPを搭載したのです。それによってパフォーマンスは飛躍的に向上しました。
北脇:そのように昨年の段階でAVR-X1200W、AVR-X2200Wは以前のモデルと比較して大きな進化を遂げていました。
今回発売されたAVR-X1300W、AVR-X2300Wは去年のモデルから見るとスペックや機能ではあまり進化がなくて、モデルチェンジとしては地味に思われがちなのですが、実は細かい部分がかなり良くなっています。
■今日はそのあたりをお話しできればと思います。
■具体的にAVR-X1300W、AVR-X2300Wではどのあたりが進化しているのでしょうか。
北脇:DSPのようなキーデバイスが変わった時は製品のパフォーマンスとしてはグッと上がりますが、開発面では結構大変なのです。
ソフトも白紙の状態から開発しなければなりませんし、音が出るまでも大変で、レベルもひとつひとつていねいに合わせ込んでいかなくてはなりません。
こうした大きなモデルチェンジでは最初から問題なくすべてのチャンネルから音が出るということは奇跡に近いです。
どこかで不具合が起き、それを解決する、ということに時間が取られてしまいます。
ですから、なかなか音質を吟味することに時間をたっぷり割くことができないのです。
島村:その面では「キーデバイスが変わったことでの苦労」は昨年済んでいますから、今年のモデルは最初からある程度準備が整っていました。
ですから早い段階から音の作り込みができたのです。
昨年はキーデバイスの開発に関わっていたマンパワーを音質面に割けるようになりました。
カタログなどには出にくい要素ですが、昨年より音のグレードは上がっていると確信しています。
■ある意味「熟成」した、ということですね。ちなみに設計上ではどんな変化があったのでしょうか。
島村:音に関わる主要なパーツは昨年から変わっていませんが、電源系は強化しました。
昨年DSPが変わったこともあり、今年はその能力をより生かせるように電源を見直したのです。
もちろん音は変わりますし、デジタル回路への電源ノイズを減らすことで、音質は改善します。
あとは信号経路のミニマム化でしょうか。
■音に関しては昨年のモデルとほとんど同じパーツなのに、どうして音が変わるのでしょうか。
島村:我々が担当しているエントリーモデル、ミドルクラスのモデルは、パーツに使える予算が限られているのです。
従って大きな部分で高価なパーツに変更することはなかなかできません。
そうなると、コストはかからないが、ちょっとしたことで音が変わる、良くなる、という点を探すんですよ。時間をかけて。
北脇:キーデバイスほど劇的ではないにしても、ある部品をピンポイントで変えるだけで、かなり音が変わることがあります。
お金もたいしてかからないところで、あるコンデンサーをちょっと変えてみたら「お、これいいね」ってなることがあるんですよ。
また部品のバランスというのもあり、これとこれをコンビネーションで変えると 音像が変わるということもあります。
そのあたりは地味なパーツなので、派手な謳い文句にはなりませんけどね。
このあたりは数値で見つけにくいので、聴感で確認するしかありません。
■今回のモデルで「音質」として目指したのはどんな点ですか。
島村:音質に関しては、「どのモデルと比較するのか」がキ-になると思いますが、それにはいくつかの見方があります。
まずは時間軸として昨年のモデル。それから縦軸としてデノンAVアンプのシリーズとしての統一性。
そしてもちろん横軸として他社モデルの動向も確認しながら、より良くなるようにステップアップを目指しています。
北脇:他社のモデル、といってもデノンには「デノンの音のポリシー」があります。それを大事にしながら他社を含めたAVアンプの動向を見据えて、ということになります。
■音質面に関して、具体的にはどんな点が改善されたのでしょうか。
北脇:ダイナミックレンジが広くなって、サウンドステージがよりしっかりしました。デノンとして、サウンドマネージャーの山内が言っている新しい二つのコンセプト「スペーシャス」「ビビッド」これらが実現できるように音作りをしました。
※デノンのサウンドのキーワード「ビビッド」」「スペーシャス」については デノンサウンドマネージャー、山内慎一インタビューvol.1をご覧ください。
島村:実際に山内の評価をはじめ、社内では主要パーツ、仕様もほとんど変わっていない中で、解像度、分解能が上がったという評価をもらっています。
■AVR-X1300WとAVR-X2300WはデノンのAVアンプでは購入しやすい価格帯のモデルです。
カタログスペックだけを見ると同じように見えるのでお客さまも、どちらのモデルが自分にとっていいのか迷われるかと思います。
端的に言って2つのモデルの違いはどんな点でしょうか。
島村:今のAVアンプは、エントリーモデルからフラッグシップまで、機能的にはどれもオールインワンになっているので、機能だけ見るとかなり似かよっています。
もともと私が担当していたAVR-X1000は5.1チャンネルでしたが、AVR-X1100Wから7.1チャンネルになりました。
北脇:そうなんですよ、ですから私が担当しているAVR-X2000番台は以前から7.1チャンネルですが、Dolby Atmos、Bluetooth、Wi-Fi、7.1chとAVR-X1300Wと、機能的にはほとんど同じで、下から突き上げられています(笑)。
島村:とはいえ、やっぱり出力が違いますから音的には違いますね。
■でもAVR-X1300Wが175W、AVR-X2300Wが185Wですから10Wしか差がありませんよね。
島村:いや、パワーを出すためのトランスのサイズも違いますし、持っている馬力が違います。1300Wを聴いた後で2300Wを聴けば、ああ、やっぱり違うなって、わかっていただけると思います。
■なるほど。最後の質問ですが、お二方ともAVアンプの開発に長く携わっていると聞きました。
AVアンプ開発の面白さは、どんなところにあるのでしょうか。
島村:うーん、立ち止まらないことでしょうか(笑)。
デノンの場合、AVアンプは毎年モデルチェンジしますので、1つのモデルを1年サイクルで担当することになります。
サラウンドフォーマットが新しくなったり、ワイヤレスが搭載されたり、USBだなんだって、どんどん進化しますよね。
忙しいんですが、このスピード感がAVアンプを開発する面白さだと思います。
■泳ぎをやめてしまったら死んでしまうマグロみたいな感じですね(笑)。北脇さんはいかがですか。
北脇:これは変な意味ではないので誤解してほしくないのですが(笑)、ある意味で「真っ当でない方法」を考えるのが楽しいですね。
AVアンプは、Hi-Fiオーディオのようにお金をかけられませんし、そもそもHi-Fiなら2チャンネルのところ、AVアンプの場合は7チャンネル以上あります。
3倍以上のアンプがあり、しかもデジタルデバイスも多々使われています。
それでHi-Fiに音を近づけるといっても、真っ当な方法はなかなか採れません。
ですからコストの範囲内に収まる別の新しい手法を編み出すしかない。
そこでいろいろ考えてみて、「あ、これ面白いね」というものを見つけるんですが、それが大変ですけど、楽しいんです。
島村:そのようなノウハウを我々はVEC(Value Engineering for Customers)と呼んでいます。
コストをかけずに機能や品質を維持することで、音質に関わる点にコストがかけられるようになります。
北脇:高価なパーツを使いたい場合、どこかでその予算を捻出しなくてはなりません。
そのような時にはVECネタでなんとか予算を確保するわけです。
私たちが設計しているエントリーモデルやミドルクラスのAVアンプは、そのあたりが大事なので、いろんなVECノウハウを持っています。
こうしたノウハウは、上のクラスのAVアンプの開発にも展開されていきますから、デノンのAVアンプ全体の進化にもつながっていきます。
■なるほど、AVアンプのすごい進化にはそういう苦労があったんですね。
今日はどうもありがとうございました。
(Denon Official Blog 編集部 I)