レコーディングエンジニア村松健氏にAH-D9200、AH-D7200、AH-D5200を聴き比べてもらった
ハウジングに天然木を採用したヘッドホン、リアルウッドシリーズが好評です。デノンオフィシャルブログでは、クラシックの録音を多く手掛けるオクタヴィア・レコードのエンジニア村松健さんに、AH-D9200、AH-D7200、AH-D5200を聴き比べていただきました。
最初はリスニング用でしたが今はミックスでAH-D7200を使っています
●村松さんには、以前デノンオフィシャルブログ「ドレスデン ルカ教会レコーディングとAH-D7200のWインタビュー」 にご登場いただきました。その節はありがとうございました。その後AH-D7200をご購入いただいたと聞いていますが、使ってみた感想をお聞かせください。
村松:デノンのブログの記事にもなりましたが最初にドレスデンのルカ教会のレコーディングでAH-D7200を使わせてもらった時、素直に「いい音だな」と思いました。ただレコーディングの現場のヘッドホンとして使うには音が良すぎると思ったんです。同じ音でも今までよりいい感じに聴こえちゃうと思って。それで最初はミックスでは使っていませんでした。
●では最初はもっぱらリスニング用だったのでしょうか。
村松:はい主に自宅のリスニング用ですね。あとはスタジオのミックスで以前からヘッドホンを使う作業があって、たとえばノイズの確認をする時やボーカルの子音のノイズの確認などですが。これらは音量を上げないと聞こえづらいのでヘッドホンを使っています。ただその後、AH-D7200をミックス作業でも使うようになりました。
●では現在はAH-D7200をミックス作業でも使っていただいているのですか。
村松:はい。スピーカーの前で作業できない時は以前からヘッドホンでミックス作業をしていたのですが、AH-D7200を買うまでは、いわゆるスタジオの定番のヘッドホンを使っていました。ただそのヘッドホンでミックス作業をするとバランスを間違えることがあったんです。ですからいつも最終的にはスピーカーで出してバランスを補正する必要がありました。ところがあるときAH-D7200でミックスをしてみたら、わりといい感じに仕上がって、このスタジオのスピーカーから出ているバランスに近いということに気づいたんです。それからはAH-D7200をミックスでも使うようになりました。
↑インタビューはオクタヴィア・レコードのミックス・マスタリングスタジオのEXTON Studio YOKOHAMAで行われた。
自宅用にAH-D7200をもう1台買おうと思っています
●ミックス作業で使うとなるとスタジオモニター並みの解像度やバランス、レンジなどが要求されるのではないでしょうか。
村松:はい。でもAH-D7200は解像度、バランス、レンジも全部ある感じですね。ヘッドホンでは珍しいと思います。今まではスタジオでの定番のヘッドホンを使ってきて、特に疑問もなく「ヘッドホンはこういうもの」と割り切っていました。たとえば今までヘッドホンでミックスができなかったのは、数値で言うとあるチャンネルで1dB上げたとき、その違いがわからないんです。ですからヘッドホンでミックスして後でスピーカーで聴くと足りなかったり、出過ぎていたりということがありました。でもAH-D7200なら1dB上げた時に違いがちゃんとわかります。ですから今は自宅用とスタジオ用で、もう1台ほしいと思っています。
●ミックス用に使うのとしたら、1台あればいいのではないでしょうか。
村松:このスタジオで作業したミックスを家に持ち帰って聴きたいんですよ。スタジオを出たら、まず帰りのクルマのカーステレオで聴いて、それから家でiTunesに入れて、Bluetoothヘッドホンや携帯で聴いてみます。MP3にするとまた違った感じに聴こえますから。ミックスした音楽がゲーム音楽だったらスマホのスピーカーで聴いてみる。これは音がいいとか悪いとかではなくて、あくまでも音楽のバランス、つまり帯域による音量差とか、ある楽器が出る、出ないといったバランスを確認するんです。
●それは一般のユーザーの耳で聞くということですか。
村松:そうですね。一般リスナーが聴く最終の音で聴いてみて、もしバランスが悪ければ、根本のバランスが間違っているということになります。私がミックス作業をスタジオの中だけで完結させないのは、スタジオでは耳が「仕事モード」になっているということ。それからミックスの作業の時に波形やミックスのデータを目で見ちゃうんですよ。これも先入観になります。あとは実際のスタジオでの作業ってものすごくたくさんあるので、仕事が始まったらどんどん作業をしていくんです。そうしないと終わらない(笑)。ただ、その時に自分の思い込みなどもきっとあると思うんですよ。ですからスタジオでミックスをしたら、1回耳をリセットして、クルマや家でリラックスした耳で聴いてみます。それでバランスを確認して、寝る前にもう一度、少し耳を仕事モードに戻して、AH-D7200でそのミックスを聴きながら、明日の最終ミックスではこうしようと、アイディアを練るんです。
●それでご自宅でもAH-D7200が必要なんですね。
村松:はい。「あ!ヘッドホンをスタジオに忘れてきた」っていうことがあるので、そのためにもう1台必要なんですよ。
↑村松さんの私物のAH-D7200
AH-D5200とAH-D7200は兄弟モデル、AH-D9200は飛び抜けてスゴい!
●今日はAH-D7200の後で発売されたAH-D5200とAH-D9200を持ってきました。聴き慣れたAH-D7200と比較試聴していただけないでしょうか。
村松:はい、ぜひ聴かせてください。
※試聴ではオクタヴィア・レコードからリリースされている以下の音源を使用しました。
書き下ろし作品を含む、まさに「日本人作曲家によるマーチ傑作選」!
「行進曲」 ―世界に冠たる日本のマーチ―
武藤英明(指揮)ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
税抜価格:3,000円 品番:OVCL-00688
詳細を見る
●(スタジオ機器を使った徹底的な試聴後で)使い慣れたAH-D7200と比較していかがでしょうか。まずAH-D5200からお聞かせください。
村松:AH-D5200は以前もお店でチェックしたことがありましたが、このスタジオでちゃんと聴くとやはり兄弟感があるというか、AH-D7200に近い印象を持ちました。しっかりとしたAH-D7200の弟分という気がします。AH-D7200の代わりとしても十分使えますし、価格もリーズナブルなのではないでしょうか。
↑スタジオでの試聴。左からAH-D9200、AH-D7200(村松さん私物)、AH-D5200
●そしてフラッグシップモデルのAH-D9200はいかがでしたか。
村松:AH-D9200にはちょっとビックリしました。異母兄弟? 比べちゃうとAH-D7200はAH-D5200に近いですが、AH-D9200は飛びぬけていいです。
●試聴した第一印象は「ちょっと硬いかな」とおっしゃってましたね。
村松:はい。最初はAH-D7200を聴き慣れていたので音が硬いと思ったんですけど、聴いているうちに、すべてのレベルが高くて、AH-D7200の低音のちょっとモタっとしている部分、そこがAH-D9200ではタイトになっているのでそう感じたのかもしれません。でも低音もちゃんと出ているんですよ。低音が速い、というか。実はこっちのAH-D9200の低音が正解なのかな。もう一回比較して聴いてみていいですか。
●ぜひお願いします。
●(再度AH-D7200とAH-D9200を比較検聴して)いかがだったでしょうか。
村松:AH-D9200は、いいです。悔しいけどこっちのほうがいいなぁ。比べちゃうと歴然ですね。AH-D7200を持っているから何か文句言いたいなと思っていろいろ探してみたんですけど、AH-D9200は「とにかくいい」としか言いようがありません。AH-D7200に慣れてしまっているので、AH-D9200を仕事に使うとしたら、AH-D7200との違いをどう補正するかという問題はありますが、慣れたらAH-D9200のほうが、ミックスにもいいでしょうね。
●AH-D9200とAH-D7200の差は、かなり大きな差なのでしょうか。
村松:大きいです。正直言って今まで甘く見ていました。AH-D7200が非常にいいヘッドホンだったので、AH-D9200は上位モデルとはいっても、まあ素材などが豪華で、音もちょっといいぐらいのモデルだと思っていました(笑)でも設計思想自体が違うのかもしれません。AH-D7200をもう1台買おうと思っていたところなので、正直言って困ってます。
「スタジオの音がそのまま持ち歩ける」のがヘッドホンの理想
●デノンのヘッドホンはいずれも、いわゆる音楽鑑賞用、リスニング用とされていますが、スタジオで使用するモニターヘッドホンとはどうちがうのでしょうか。
村松:本来は、あまり違いはないと思います。ただレコーディングの現場には業界標準のヘッドホンがあって、それをみんなが使っているので、音がいいとか悪いとかは関係なく、特に疑問もなくあの音が「モニター用」となっていただけだと思います。私もそう思って使っていました。
●いわゆるモニター用ヘッドホンは、どんなサウンドなのでしょうか。
村松:スピーカーの音とは全く別物で、音楽を聴くものというよりノイズの有無を確認したり音を解析するためのものだと私は思います。でもAH-D7200はスピーカーから出した時の音の印象に近いです。実際AH-D7200でラフミックスしても、かなりいいバランスに仕上げることができます。スタジオでデノンのヘッドホンを使っている人はあまり見かけませんが、エンジニアの人も、もっと使えばいいのに、と思います。
↑孟宗竹ハウジングを採用したAH-D9200。表面には木地を生かした凹凸がある。
●村松さんにとって理想のヘッドホンとはどういうものでしょうか。
村松:究極としては「いつものスタジオのスピーカーで聴いている環境をそのまま持ち歩ける」ことでしょうか。私は外のスタジオでミックスするとき、このスタジオで使っているスピーカーと同じものを持って行きます。できるだけ同じ音でミックス作業をしたいからなのですが、ただ音って、部屋の大きさや形、壁面の素材などによって大きく変わりますし、スピーカーを置く場所でも音が変わってしまいます。ですから、その違いを確認するためにいつもリファレンスとしてヘッドホンを持って行きます。今まで何種類かのヘッドホンを使ってきましたが、今使っているAH-D7200が一番安心できます。
●究極は「このスタジオの音がそのまま聴けるヘッドホン」ということでしょうか。
村松:はい。今まではAH-D7200で十分満足していて、もう1台買うつもりでいたのに、まさかその上が出てくるとは! ちょっと困っています(笑)。
●今日はお忙しい中、ありがとうございました。
(編集部I)