銘機探訪「DP-S1 & DA-S1」PART2
オーディオファンなら見逃せない、デノン伝説のモデルをご紹介する「銘機探訪」。第2回は、伝説的なCDトランスポート DP-S1 とD/Aコンバーター DA-S1のパート2です。
デノンの歴史的な銘機をご紹介するこのコーナー、第2回は、
CDプレーヤーの駆動部分とDAC部分をセパレートしたCDトランスポート DP-S1 とD/Aコンバーター DA-S1 をご紹介します。
DP-S1とDA-S1は1990年代前半に「設計者がその時点で具現化できる最高のモノをつくる」
というコンセプトで作られたS1シリーズの製品群の一つでした。
S1シリーズはいずれも後のデノン製品に大きな影響を与えていますが、
DA-S1は「ALPHAプロセッサー」が初めて搭載されたという点でマイルストーン的な製品と言えるでしょう。
ALPHAプロセッサーはその後も進化を続け、
現在は「Advanced AL32 Processing (アドバンスドAL32プロセッシング)」としてフラッグシップモデルDCD-SX1にも搭載されるなど、
今でもデノンのCD再生技術の要となっています。
もちろんこのALPHAプロセッサーは、何もないところから突然開発できたわけではありません。
その開発の背景には長年に渡るデノンのデジタル音声処理技術の歴史があります。
デノンは1972年に世界で初めてPCM録音を行いました(その音源は当時、LPで発売されました)。
その後もデジタルオーディオのメリットを伸ばしつつ、デメリットを解消するべく研究開発を推し進めました。
そしてCDの時代の幕開けとなった1982年10月1日、世界初のCDプレーヤーとしてDCD-2000を発売。
1983年にはデジタル再生時のゼロクロス歪(ひずみ)を低減する「スーパーリニアコンバーター(S.L.C)」を搭載したDCD-1800を発売、
さらに1989年には理論上ゼロクロス歪が発生しないフルバランスの4DAC20bitラムダ S.L.C回路を搭載した
CDプレーヤーDCD-3500RGを発売しています。
(詳しくはDCD-SX1スペシャルサイト「デジタルの歴史、Denonの歴史、そしてDCD-SX1」をご覧ください)
DCD-3500
この技術で開花したのが、D/AコンバーターDA-S1(1993年)のALPHAプロセッサーです。
開発された目的はラムダ S.L.Cという技術で浮き彫りにされた、デジタル録音における量子化による歪を改善すること。
ALPHAプロセッサーは究極のクオリティでD/A変換させるという、
まさに録音の現場と再生の現場が待ち望んでいたテクノロジーでした。
これによって、それまでのCDプレーヤーでは再現できなかった極めて繊細で、
演奏者の息づかいまでを感じさせる高品位な音の再生に成功したのです。
CDに記録された音を可能な限り正確に再生するために極限まで追求していくという情熱。
それはデジタル録音を世界で初めて行ったデノンの使命といってもいいでしょう。
一方、CDトランスポートDP-S1は、まさにCDの盤面からデータを拾い上げるために徹底的にメカを磨き上げたという点で、
その後のデノンのCDプレーヤーの設計思想に大きな影響を与えました。
それにしてもこのDP-S1のデザイン、それまでのデノンのCDプレーヤーとはかなり趣きが異なりユニークです。
開発当時は社内でも賛否両論がありました。
しかし究極のディスク回転メカニズムを目指した以上、デザインも中途半端のものではなく、
製品に込められたデノンの強い意志を表現すべく、このデザインが採用されました。
ところでこの丸みを帯びたデザイン、実はあるものからインスパイアされています。
読者のみなさん、なんだと思いますか?
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はい、その答えはこちら!
レコードプレーヤーです。これは1972年に発売されたDP-3000というダイレクト・ドライブ・サーボターンテーブル。
いわれてみれば、ちょっと似ていると思いませんか?
実は、回転精度の正確さで高い評価を得たこのレコードプレーヤーのプロダクトデザインのコンセプトがDP-S1に引き継がれているのです。
デノンというブランドの発祥は、日本で初めての録音機製造会社「株式会社 日本電音機製作所」であり、
NHKをはじめとする放送局のために製品を開発していました。
終戦を国民に伝えた「玉音放送」に日本電音機製作所の円盤録音機が使われたエピソードは、今もなお語り継がれています。
音声の記録媒体としての円盤がレコードからCDに変わっても
「ディスクメディアからの信号の正確な読み取りと音楽的な再生」という信頼性はやはりデノンならではのものであり、
それを体現しているのが、このデザインだといえるでしょう。
デノンのレジェンドは音だけでなく、そのデザインにも宿っているのです。
(Denon Official Blog 編集部 I)