PMA-SX1の匠たち Part1 サウンドマネージャー米田
デノンの新たなフラッグシップ・プリメインアンプ PMA-SX1。カタログでは語り尽くせないその本質を、開発に関わった4人の匠たちにインタビューしました。第1回は開発コンセプトなどをサウンドマネージャーの米田が語ります。
デノンの新たなフラッグシップ・プリメインアンプ PMA-SX1。
アンプの本質をさらに追求し、Advanced UHC-MOS シングルプッシュプル回路とバランスアンプ回路を搭載。
シンプル&ストレート化を徹底することで、従来モデルを凌駕する高音質を実現しました。
「PMA-SX1の匠たち」では、PMA-SX1に開発に関わった4人の「匠たち」にインタビューし、
カタログやスペックなどでは語り尽くすことができないPMA-SX1の本質に迫ります。
第1回はPMA-SX1の開発コンセプトや概容、そして目指したサウンドなどについて、サウンドマネージャーの米田が語ります。
PMA-SX1の匠たちシリーズ一覧はこちら。
Advanced UHC-MOS シングルプッシュプル回路と
バランスアンプ回路を搭載した新世代のフラッグシップ・プリメインアンプ
インテグレートプリメインアンプ
PMA-SX1 580,000 円(税抜価格)
D&M デノン サウンドマネージャー 米田晋
●PMA-SX1がめざしたもの
■今回は「PMA-SX1の匠シリーズ」として、PMA-SX1の開発に携わった方々にインタビューさせていただきます。
まず初回は開発スタート時点から、製品発売に至る全プロセスにサウンドマネージャーとして関わった米田さんにお話をうかがいます。
まずPMA-SX1の概容からお願いします。
米田:PMA-SX1はデノンの新しいフラッグシップ・プリメインアンプです。
1993年、パワーアンプのフラッグシップモデルとして立ち上げたPOA-S1は、最高水準の音質を追求し、
以降歴代のフラッグシップアンプはずっと大電流増幅素子「UHC(Ultra High Current)-MOS FET」による
シングルプッシュプル回路を採用してきました。
今回もその回路構成を踏襲しています。
また同じくデノンのフラッグシップアンプの伝統であるフルバランスアンプ回路も継承しています。
これらはすべて、アンプの本来の役割である「信号を増幅し、スピーカーを駆動する」という性能を極限まで高めるためのものですが、
今回は「シンプル&ストレート化」をさらに徹底し、
今まで搭載していたバランスコントロールやレックアウトセレクターを思い切って抹消してしまうなど、
徹底的にアンプの本質の部分を追求しました。
この「シンプル&ストレート」というコンセプトはデザイン面でもキーワードとなっており、
今までではありえなかった重厚なプレミアム感のあるデザインも、PMA-SX1のサウンドをシンボライズしています。
このように機能を潔く削ぎ落としていったPMA-SX1ですが、こだわって追加した機能があります。
ひとつはフォノイコライザーです。
CD、アナログレコード、そして昨今注目を集めているハイレゾ音源を含め、
オーディオを聴くためのメディアは近年多様化してきましたが、
PMA-SX1はそれら全てのメディアに対し、最良の音質を提供したいと思って開発しました。
アナログレコードに関しても「今考えられる最高」を聴いて欲しいという観点から、
インピーダンス切り替えスイッチ付きのMC/MM対応CR型フォノイコライザーを実現しています。
さらにもうひとつ、プリメインアンプのフラッグシップモデルでは初めて、リモコンを搭載しました。
リモコンに関しては音質への悪影響を避けるため、アンプを操作していないときは
マイコンのクロックを停止するマイコンストップモードを採用しています。
●ゼロベースからたどり着いた「シンプル&ストレート化」
■「大電流が流せるAdvanced UHC-MOSによるシングルプッシュプル回路」「フルバランスアンプ回路」を継承したということは、
PMA-SX1は歴代のデノンのフラッグシップ・プリメインアンプの考え方をさらに推し進めたもの、と考えていいのでしょうか。
米田:結果的にはそう言っていいと思います。
しかしPMA-SX1開発当初から「従来方式の継承」が既定路線、というわけではありませんでした。
■具体的に教えていただけますか。
米田:フラッグシップモデルとは今現在我々が使えるあらゆる技術を結集して、最良の音を目指すものです。
従って開発当初は基本的にはゼロベースで、様々な方式、あらゆる可能性を探って行きました。
ですから特にシングルプッシュプル、フルバランス構成は既定路線だったわけではありませんし、
多機能を目指す方向性やクラスDについても検討はしました。
しかし、音質的に上回る技術は見出せませんでした。
それと今回は、特にゼロベースで考えざるを得なかった理由もあります。
それは今までSシリーズからずっと採用し続けてきたUHC-MOS FETの素子の部品調達が難しくなったjことです。
これはかなり大きな問題でした。
■それは今まで使ってきた素子で培ってきたノウハウが使えないわけですから大変なことですね。
米田:大変でしたよ、特に開発者が(笑)。ギリギリまで様々な別の方式も検討しながら、使えそうな素子を探しました。
最終的には今までよりも電流容量の大きなUHC-MOS FETの素子を見つけることができました。
新たな素子は定格電流が30Aから60Aに、瞬時電流は120Aから240Aへと電流容量が倍増しましたので、
シングルプッシュプル、フルバランス回路のメリットを、さらに余裕を持って実現できるようになりました。
■PMA-SX1のコンセプトである「シンプル&ストレート」とはどういう意味ですか。
米田:回路もデザインも徹底的にシンプルかつストレートにすることで、
アンプ本来の機能である「増幅、駆動」にフォーカスしていく、という意味です。
回路については従来の方式を継承できることになったので、
それなら、徹底的にその部分をクローズアップして、機能を絞り込もうということになりました。
たとえばプリアウト、トーンコントロール、バランスコントロールなどを省いていますし、
内部の配線も最短となるように回路構成には工夫が施されました。
またデザイン面でも装飾的な部分を割り切り、
フロントパネルの操作ボタンもボリュームツマミ、電源ボタン、セレクターのみと、まさにシンプル。
これ以上にはできないくらい最小限に抑えられています。
●アナログレコードの高品位な再生が行えるCR型を採用したフォノイコライザー
■「シンプル&ストレート」というコンセプトで機能を削ぎ落とす中で、フォノイコライザーに関しては、
MC/MM対応CR型イコライザーが搭載されました。これはどういう理由からでしょうか。
米田:先ほども言いましたが、デノンのフラッグシップ・プリメインアンプの役割は、アナログレコード、CD 、そしてハイレゾ音源など
様々な魅力を備えた音源のすべてを可能な限り高品位に再生することです。
アナログレコードについては、回路規模が大きくなり、SN比を確保するのが難しくはなりますが、
NF型よりもフラットで高品位な再生を可能にするCR型を採用しました。
CR型フォノイコライザーは、かつてプリアンプのPRA-2000に搭載され、今なお、その音質が高く評価されている回路です。
またMC/MM両対応とし、MCカートリッジに関しては、
50年間、性能・仕様を変えずに生産し続けているデノンのDL-103を最高の状態で再生し、
様々なMCカートリッジにマッチングする高インピーダンス用と、
一部海外ハイエンドブランドMC型カートリッジで採用している低インピーダンス用との切り換えが行えます。
●オールデノンで実現した「大地に根付いた、安定した音場」
■PMA-SX1は、一言で言うとどんなサウンドに仕上がったのでしょうか。
米田:ブレのない音場、大地に根付いた音、今までよりさらに安定したサウンドステージが実現できたと思っています。
「シンプル&ストレート」に信号を増幅してスピーカーを駆動するという、アンプ本来の機能に徹底的にフォーカスしたこと、
特に2倍の電流容量を持つUHC-MOS素子を採用したことは大きいと思います。
また非常に重量のある無垢のアルミ削り出しのパネル、アルミ無垢材削り出しの大型ボリウムノブの採用なども、
プレミアム感のあるデザインを実現すると同時に音質向上に大きく寄与しています。
■フラッグシップ・プリメインアンプと呼ぶに相応しい高音質を実現するために、
設計、製品デザインなど、さまざまな要素が結集されているということでしょうか。
米田:その通りです。
製品企画から設計、デザイン、さらに実際の生産まで、製品にかかわるすべてのプロセスにおいて、
今までにないこだわりを実現するためにベストが尽くされています。
PMA-SX1は工業製品ではありますが、まさにオールデノンによる作品、と言っても過言ではないと思っています。
■ありがとうございました。
PMA-SX1の匠たち、第2回は設計を担当した新井孝のインタビューをお送りします。
ぜひお楽しみに。
(Denon Official Blog 編集部 I)