名盤発掘!デンオン・ライブコンサート「カレイドスコープ
Editors Choice、今回は1978年に日本コロムビアから発売された日本のフュージョンの名盤「カレイドスコープ」の復刻CDをご紹介します。このアルバム、伝説の生放送のライブ番組「デンオン・ライブコンサート」というFM番組から生まれたアルバムでした。
アーティスト名:ミッキー吉野&渡辺香津美
アルバム・タイトル:Kaleidoscope
SHOWBOAT
ジャンルを問わずに編集部が選んだ逸品をリコメンドするコーナー「Editors Choice」。
今回は1978年に日本コロムビアから発売された日本のフュージョンの名盤「カレイドスコープ」をご紹介します。
1978年といえば、ロックでいえばヴァン・ヘイレンが「ユー・レアリー・ガット・ミー」でデビューしてギターキッズの度肝を抜いた年。
日本の音楽シーンではサザン・オールスターズが「勝手にシンドバッド」でデビューした年でもあります。
その前年、日本のジャズ・クロスオーバーシーンでは渡辺香津美がアルバム「オリーブス・ステップス」を大ヒットさせ、期待の新星として注目を集めていました。
編集部Iは当時ギターに夢中な中学生でしたが、渡辺香津美に心酔してLPを毎日聴いていました。
「オリーブス・ステップス」と並んで当時よく聴いたアルバムが、この「カレイドスコープ」でした。
「カレイドスコープ」は渡辺香津美とミッキー吉野(from ゴダイゴ)のダブルネームでリリースされましたが、実はこのアルバム、当時の日本のジャズ・ロックシーンの若きスターたち、後に日本の音楽シーンで重要な役割を果たすミュージシャンたちが結集したいわゆるスーパーセッションアルバムでもありました。
とはいえ、LPの時代も遠くなりにけり、いつのまにかこのアルバムも遠い記憶の彼方となり、30年以上もすっかり忘れていたのです。
ところがつい最近インターネットで、このアルバムがCDで復刻されたことを知り、懐かしさのあまり、すぐ注文してみました。
当時のLPをそのまま縮小したような紙ジャケット。
しかも当時のオリジナル帯までが復刻されています。
ということで当時の帯をよく見てみると……。
なんと、発売は日本コロムビアではありませんか!しかも「デンオン・ライブコンサート200回記念特別セッション」と書いてありました。
そこで調べてみたところ、いろいろわかってきました。
「デンオン・ライブコンサート」は1973年からスタートしたFM放送黎明期の伝説の番組。
ミュージシャンたちの演奏をそのまま生放送するスタイルの1時間番組で音楽愛好家からの高い人気を誇りました。
この番組は8年間毎週生放送され、合計425回も続いたそうです。
司会はオーディオ評論家 菅野沖彦さんでした。
この番組では毎週ジャズ、ポピュラー、ロックと幅広いジャンルのライブが繰り広げられたそうですが、この「カレイドスコープ」というアルバムは「デンオン・ライブコンサート」の放送200回を記念したセッションであり、ジャンルを超えたメンバーが結集した理由もそこにあります。
しかもレコードとしてのリリースにあたって若干のオーバーダブ録音はしているものの、基本は1978年2月26日にスタジオでライブレコーディングされたものだとか。
ライブとは思えない、凄い完成度です。
収録曲は、M-1「Maiden Voyage」ハービー・ハンコックのカバー。
M-2「The World Is A Ghetto」WARのカバー。
M-3「As」スティーヴィー・ワンダーのカバー。
そしてM-4「Kaleidoscope」の4曲。
最後のKaleidoscopeは15分以上の大作であり、渡辺香津美とミッキー吉野の共作のオリジナル曲。
私の記憶が正しければLPの時は、B面がすべて「Kaleidoscope」だったはずでした。
そして演奏メンバーですが、これもすごいです。
渡辺香津美(g)、松本博(kbds)、岡沢茂(b)、村上秀一(ds)、横山達治(perc)、向井滋春(tb)、土岐英史(sax)、植松孝夫(sax)、ミッキー吉野(key)、竹田和夫(g)、土屋昌巳(g)、井上憲一(g)、ジョージ紫(hammond)、ジョン山崎(kbds)、スティーブ・フォックス(b & vo)、トミー・スナイダー(ds)。
そしてボーカルに酒井俊(M-1,2&3)、カルメン・マキ(M-2&3)。
後に竹田和夫はクリエイションで、土屋昌巳は一風堂で、そしてミッキー吉野、スティーブ・フォックス、トミー・スナイダーの3人はゴダイゴのメンバーとしてそれぞれ大ヒットを飛ばすことになりますが、このレコーディングはその直前。
まさに若さと才能がほとばしる、シリアスで熱い演奏です。
今聴いても印象的なのは、当時飛ぶ鳥を落とす勢いの渡辺香津美の華麗なギターと、アヴァンギャルドで暴力的な土屋昌巳のギター、そしてブルージーで渋い竹田和夫のギターのバトル。
そのフレーズは今でも覚えていました。
それにしても今回このCDを聴いて思ったのは、当時日本コロムビア=デンオンが、こうした、若き才能あるミュージシャンたちを起用した良質な音楽番組を、8年間という長きにわたり地道に提供していたことです。
渡辺香津美はこの直後の1979年に、シンセサイザーに坂本龍一を、ドラムに高橋幸宏を迎えたKYLYNという日本音楽史上に名を残すバンドを結成しますが、カレイドスコープのサウンドは、すでにKYLYNの音を先取りしているような印象を受けます。
KYLYNは後にYMOへと連なる系譜でもあり、日本の音楽シーンを動かすような重要なサウンドを生み出す一つのきっかけが、「デンオン・ライブコンサート」にもあったのかもしれません。
ちなみに、デノンの銘機を掲載したデノンミュージアムというサイトの1978年のFM専用チューナー「TU-1000」の説明に、「デンオン・ライブコンサート」の記載がありました。
『FM放送随一のレギュラー生番組"デンオン・ライブコンサート”とか、昨年放送のPCMダイレクト再生等でも立証されている通り、FM放送は、条件さえ整えばディスク・テープ再生を凌駕する高忠実度再生が可能であると言えます。』とありました。
つまり「デンオン・ライブコンサート」はテープに録音することなく生演奏をそのまま生放送でオンエアすることで、より高音質な音楽再生ができるのではないか、という実験の場でもあったようです。
この飽くことなき「いい音への追求」の精神は、現在まで綿々と引き継がれているデノンスピリットといえるのではないでしょうか。
当時の彼らの音楽のクオリティの高さを知るためにも、音楽ファンのあなたには御一聴をオススメします。
ちなみに裏ジャケットには若き獅子たちの写真が載っていますが、誰かおわかりになるでしょうか?
(Denon Official Blog 編集部I)